閑話 如月遠矢
家に帰り、身支度を整えてから、父に会いに行った。大きな扉の前で声を掛けると、入れと声が掛かる。
中に入ると不機嫌そうな父が、執務の椅子に座っていた。
「お前が、探索者になるのを許可した覚えはないが」
低い声でそう告げられる。
「20歳までは、自由にすると言ったはずです」
そう言うと、不満そうに鼻を鳴らされる。
「探索者は駄目だ。危険が多すぎる」
「それなら、何が良いとおっしゃるのですか?」
「お前が自分の身を守れるようなら、何でもいいと言ったはずだが」
「俺は自分で守れます」
「大人に囲まれて、抵抗も出来なかったのにか?」
思わず言葉が詰まる。
確かにあの時、自分は二人を置いて連れていかれてしまった。力で抵抗しても良かったのか。その答えは今でも分からない。
「他人を気にして行動できないなら、何をしても一緒だ。大人しく保身に励むがいい」
「父上」
「お前は決意だけが良くて、実質がともなっていない。もう少し考えて動くんだな」
それだけ言うと、父は外へ出ろと手を振った。
仕方なく、頭を下げて部屋の外に出る。
俺がやっている事は、父の手の上で足掻いているだけなのか。
どうすれば、父の手から逃れて生きていけるのか。
どうやっても考えがまとまらない。
屋敷を抜けて、コンビニに行った。
イライラしながら、アイスコーヒーを買って外に出て飲んだ。まだ暑い空気が頭を冷やしてはくれない。
悔しいが俺にはどうにも出来ないのだろうか。
「あれ、如月さん?」
声を掛けられて目を向けると、九条君が立っていた。
「どうしたんですか?」
「君こそどうして?」
「僕はアイス食べたくて。家にないって言うから買いに来たんです」
「そうか」
九条君は中に入って、アイスを買って、外に出て来た。
袋を開けて、パクッとアイスを咥える。
「うっま」
ニコニコと食べている顔を見ると、何だか少し落ち着いた。
「君は怒っていないのか?」
「…まだ気にしているんですか?もう終わった事でしょう?」
「そうだが」
「如月さんは、探索者するんですか?」
それには答えられない。探索者になる事が唯一の抵抗だと、何処かで思っていた。試験も通ったし、冒険も良いかも知れないと思っていたが。
アイスを食べながら、九条君が隣で俺を見ている。
「しないんですか?」
「…したいが出来ないようだ」
「ああ、家の事ですか。残念ですね」
「俺はしたいのだが」
半分ぐらい食べたアイスを、なぜかじっと九条君が見ている。そしてアイスを袋に戻した。
「いや、溶けるだろう?」
「はい、そうなんですけど。僕、お腹が弱いからこれぐらいしか食べられないんです。何時か全部食べてみたいな」
そう言って笑った。
え、そんな少しで駄目なのか。それは大変だ。
「如月さんて、クランとかしないんですか?」
「え、俺がクラン?」
「はい。自分で出来ないなら、人を使って冒険すればいいのにって思いました」
「俺のクラン。君は入ってくれるのか?」
「無茶言わないで、自由にさせてくれるなら」
「それはクランに入る意味がないだろう…」
九条君は、そうですねと笑った。
「もっと、如月さんの自由に出来る相手を探せばいいじゃないですか」
「俺の?」
「はい。家のトップにいずれなるんでしょう?それなら優秀な探索者を囲ってもいいじゃないですか?」
「…そうか。考えてみようか」
「戯言ですけど」
「…九条君、君な」
ふはは、と笑って九条君は家に帰って行った。
住まいはこの近くなのか聞かなかったな。
俺はぬるくなったコーヒーを飲んで、コンビニから帰る。
悪くない発想だと思った。
探索者にはなれなくても、探索には関わっていたいのか。
自問自答してみようか、俺の可能性を。
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