第5話

その週の末、俺とさちは唯の実家に行き、アルバムを探した。

 パラパラと捲れる写真の音が心地よく部屋に響く。そして一枚の写真に目が止まった...。

唯と今生の別れとなる夏祭りの一年前の事...。夏休みの間だけでもと言う事で始めたバイトのカフェの前で撮った唯とのツーショット写真だった...。

「あっ、懐かしい...此処のコーヒー美味しかったなぁ...」と後ろからさちが肩越しに覗き込んでいた。「あれ?さち此処行ったことあるの?」と彼女に問いかけると頷いた。

「ここね、コーヒーとケーキが美味しいっていう噂のお店だったんだ。でもお小遣いも少なかったし、一度しか行けなかったんだけど、コーヒーも栗のショートケーキもすっごく美味しかったんだ!」キラキラした瞳でそうさちは語った。

 「もしかしたらお兄さんは知ってるかもしれないけど、私たちの先輩で一組の男女が働いてたんだってさ...。兄さんは何か知らない?」この話に思わずぴくりとしてしまった。心当たりがあった...とちうより、その男女というのが俺と唯だったからだ...。此処でのバイトは、最初はお盆の際に出かけてしまうオーナーの息子夫妻の穴埋めで始めたバイトだったが、そのうち俺はコーヒーに、唯は菓子作りにハマった事をきっかけに自然にバイトを延長する様になった。物思いに耽っていると、さちから「ねぇ、このカフェに明日にでも行ってみようよ!」とねだられてしまった...。

「おぅ、わかったよさち一緒に行くか!なんなら奢ってやろうか?」と聞いてみれば、「良いの!?」という昔と変わらない返事が返って来た。

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