第3話
幸(さち)は「約束...思い出してくれたんだ...」といい、俺を抱きしめた。そう、幸とは「二人きりの時だけは、私を私だとすぐにわかる呼び方をして欲しい」とお願いをされ、幸と同じ読み方のサチと呼ぶようにしていたのだ...。再開してから幸を呼ぼうとすると、唯の顔が瞼にちらつき、「ゆき」と呼んでしまっていた。彼女に重なる唯の影にも話しかけていたから...。
「待たせてごめんな...幸(さち)。長くなっちゃったな...。」そして、彼女の細くしなやかな体に腕を回した。彼女の頭を胸元に引き寄せると「ホントだよ...お兄さんのバカ...」との呟きが聞こえた。その短いけれど、思いの丈の込められた言葉に胸の締め付けられる思いがした。
どれぐらい時が経っただろう...少し頭の奥に残っていた二日酔いの感覚が抜けたのに気がついた。彼女も俺の変化に気がついたようで、俺の胸元から、ゆっくりと離れていった。暫く彼女は耳まで朱に染めていた。それから俺が大学に通うために東京に出てきてからのことを話してくれた。どうやら彼女の両親は、殊更可愛がっていた長女が若くして死んでしまったので、元々あまり良くなかった夫婦仲は最早修復不可能な状態になってしまっていた。毎日のように喧嘩の声が聞こえ、危険を感じた周辺住民により彼女は俺の実家に移され育てられたそう。それから暫くして彼女の両親は荷物を家に残したまま失踪してしまったそうだ。だから、彼女の家にはまだ、姉の唯に纏わるものが多く残っているという...。実家に家族の様子を見に行きがてら、唯の家の荷物の整理を行おうと心に決めた。
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