第2話

幼馴染の彼女(唯(ゆい))を亡くしてから7年...

25になった俺は東京のしがない会社員をしており、日々の業務に忙殺され心をすり減らしていた。中途で入ってきた新人社員が今日から働き始めるという部長の声が聞こえた。

少し浮かれ気味だな...こりゃ相手は女の子か。お気の毒に。なんてくだらない推測をした。

唯が亡くなった後唯の家族とはどう接すれば良いのか分からずその後疎遠となってしまった...。

彼女が亡くなった後も、度々亡くなってしまった唯の影を重ねてしまってまともに彼女や、仲のいい異性など出来はしなかった。

「本日からこちらでお世話になります!月見里 幸(やまなし ゆき)といいます。よろしくお願いします」この第一声が耳を打った...聞こえるはずがない...でも、聞き間違えるはずもない、俺が唯の声を!そう思い顔を向けると、唯の面影を色濃く継いだ見知った顔があった。唯の妹の幸だ。

「あれ...?もしかして、お兄さん?」と俺の顔を覗き込んで聞いてきた。「お、おう。久しぶりだな。幸(ゆき)」と返すと彼女は顔を僅かに曇らせた...。

そこから仕事を教えたりして、共に過ごすうちに彼女を意識するようになった。そうすると余計に彼女の顔が、唯と重なる頻度が増えた。最初に感じたのはふとした仕草だけだったのに今では、彼女のはにかんだ笑顔や話す言葉すら、唯のものと区別がつかなくなっていった...。

そんな中、会社で行われた酒の席で勧められるままに飲んでしまい、家に帰ってその場で崩れ落ちた。目を覚ますと、幸が俺に膝を貸してくれていた。そして開口一番「お姉ちゃんから、お兄さんに最期のプレゼントだよ」一枚のSDカードだった。映っていたのは病衣の唯。「や、久しぶりだね。最期がこんな感じでごめんね。...実を言うと君が私を好きだったのは、薄々わかってたよ。だからこそ、ずっと君が好きと言ってくれたあの姿でいて欲しいからだったんだ...。私も君が好きだったからね。この映像を見てるってことは、多分君は私としっかりお別れができてないんだろう?なら...私から話すことは一つだけだよ。私はもう死んだんだ。だから、いまだに私を探すのは辞めてくれ。君が心配で仕方なくなっちゃうからね。まぁ、幸と君が仲がいいのも知ってるから、そこまで心配してないけどね。だから、君は何も悔やまなくて良いんだ。いつかまたなんてない。君は今を生きるんだ。後悔がある状態で私と再開してみろ...?また会う気が失せるまで殴ってやるからな?」ビデオはこれで締めくくられた。涙がとめどなく溢れていた。私も、隣の幸も。泣いていた...。「ありがとう、幸(さち)」そう優しく話しかけると、びっくりした顔をして「約束...思い出してくれたんだ...」といい、俺を抱きしめた。

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