こゆきはこゆきでしょ

 あの主人公が最後に告白するまでには大きな葛藤があった。愛する人々を守るために自分の正体を隠し続けること、最後の戦いに臨むためにヒロインに別れを告げなければならないこと。最後に打ち明けたのは、彼女にだけは知っておいて欲しかったのだろうか。ありのままの自分を。隠していながら彼女を愛した罪を。

 仮に。目の前にいるこの、いつも好き勝手にわたしを振り回す女が、人間以外のなにかだったとして。小雪はあの主人公のような感情を抱くだろうか。

 わたしにはわからなかった。小雪が人間かそうでないかも、からかっているのかわたしに何かを伝えたいのかも。

 わからないから、彼女の底の知れない深さをたたえる瞳を見つめ直して口を開いた。


「……別に、どうもこうもないわよ。アンタが宇宙人だろうと別世界人だろうと、死神だろうと悪魔だろうと、……アンタはわたしが知ってる夏樫小雪で、それ以上でも以下でもないわ。

だいたい、こんなこともあろうかとーだの、ウチの知り合いのコネ~だの山ほどワケわかんないことしてきたし、どーせまだまだ隠し事だらけなんでしょ?

今さらアンタの正体の一つや二つ付け加えても変わんないわよ」


 そう、たとえ何者だとしても、小雪はわたしを離さないだろうし、わたしも小雪から離れられるわけがないのだ。こいつに勝手に巻き込まれたサークル活動は、確かにわたしの一部になっているんだから。


「んふ~、のぞみちゃんのそーいうトコ、だーいすき」


 思わずむせる。


「好きって……何よ、もう酔ったわけ?」

「そーいうのぞみちゃんはまだ一杯目やのに耳までまっかっかやな♪」

「あーもううっさい!

ほらシーザーサラダきたわよ! 野菜も食べなさいよね!」


頬をすり寄せてくる小雪をひっぺ返して、わたしは照れ隠しにまたグラスを口に運んだ。

 うわばみの小雪と違ってこっちは人並みでしかないんだから、あまり酔わせないで欲しかった。

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