クランクアップ

 テイク20から先は数えるのを諦めていたわたしは、その声を聞いて全身の力が抜け、その場にへたり込む。

 撮影を続けていた学生たちから割れんばかりの拍手が巻き起こり、思わず泣きそうになる。超大作映画の撮影ドキュメンタリーのような様相だけど、その実これは大学の映像研の学園祭上映作品の撮影だ。少し前に大きな話題になった有名な特撮映画のオマージュらしい。

 やたらと監督と脚本担当の部員の熱意が強く、かつ主演とヒロインの配役が部内で決まらなかったため、この大学の何でも屋、わたしたち『こゆきとのぞみのなんでも相談室』に依頼があったのだけど、配役探しのつもりが、まさか小雪とわたしが演技をすることになるとは思わなかった。経験もないのに謎に芝居が上手い小雪はともかく、わたしは大根もいいところだったので、この短期間で死ぬほど練習してなんとか形になった。サークルの片方が足を引っ張っていると思われたくなかったので、こんな喝采を受けるなら石にかじりついてでもやった甲斐があった。


「ふふ、ウチの演技でアカデミーも目やないでぇ」


 主人公役というプレッシャーをどこ吹く風で演じきりドヤ顔の小雪。なまじスタイルと顔がいいため絵になって癪に障る。

それにしても演技とは言え関西弁以外でしゃべれるとは、男役が務まること以上に意外だ。


「や~ほんとにありがとうございましたまさに理想通り! これでお二人の出番はオールアップ、後はズィーベンと怪獣パンドラ・改の戦闘シーンだけ、なので……」

「そこが一番山場なんすよぉアンノジョーカントク……」

「うう……そうだったぁ……」


 感極まって小雪にハグしかねない勢いだった映像研の面々のボルテージが冷や水をかけられたようにしぼんでいく。目の下に濃いクマを作った彼らにはまだ試練が待ち受けているらしいが、受けた依頼分は働いたので、お礼への挨拶を済ませるとわたしたちは帰り支度を始めた。

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