こゆきとのぞみのお悩み相談室(きせいじじつ)

 4月とはいえ、日が落ちると一気に冷えてくる。

 手分けしてもなかなかお守りを見つけられず、すっかり暗くなってしまった。


「うう、ごめんなさい……わたしのせいでお二人にご迷惑までかけて……」


 一緒に探していた彼女――はじめての依頼人――がうずくまり、とうとう泣きじゃくってしまった。

 わたしは広場の芝をかき分ける手を止めて、数回深呼吸した。小雪のようには出来るなくても、やるだけ優しくしてあげたかった。昔、膝を擦りむいたりお気に入りのおもちゃを失くしたとき、近所のお姉ちゃんがそうしてくれたように。


「泣かないで。

わたしたちがあなたにそうして上げたいからしてるだけ。だって目覚めがよくないじゃない、新生活の始まりに、困ってる子を見捨てるなんて。だからまだ、付き合わせてちょうだい」


 照れくさくてぶっきらぼうな言葉になってしまい、冷えてしまった彼女の背中をためらいがちにさする。

 すぐさま泣き止んで笑顔になる、なんてことはなかったけど、それでもしゃくりあげながら頷いてくれた。


「おーい、あったで~

これとちゃう?」


 空気を読まず、というかぶち壊しながら小雪が手を振りながら走ってきた。

 しゃがんでいたわたしたちが顔を向けると、得意げにかわいらしい小さなお守りを印籠のように高々と掲げて見せる。


「あの、本当にありがとうございました!

このお礼は必ず……!」


 遅くなったので近くのファミレスで食事を取り、彼女の寮の近くまで送っていった。

 別れ際、また何度も頭を下げるので、わたしはそれを手で制した。


「お礼なんていいから、また大学であったら話しましょ?」

「ん~お礼はもらっとこ、のぞみちゃん」


 せっかくわたしがいい感じの雰囲気で終わらせようとしたのにコイツは……


「はい、なんでもさせて下さい!」

「ふふ、じゃあお願いするわぁ。

ウチらの人助けサークル『こゆきとのぞみのお悩み相談室』のこと、宣伝しといて~!」


 ピュアな依頼人に向けて手を合わせ、その手の横から顔を覗かせるようにして笑いかける。


「ちょっと……!」


 サークル名のことをすっかり忘れていたわたしは慌てて訂正しようとしたけど、


「はい!

友達が出来たら紹介しますぅ!」


 ぺかー、とした依頼人の笑顔に何も言えなくなってしまった。


「ふふ、これで決まり、やな」

「アンタねえ……」


 後日……わたしは小雪に連れられてサークル立ち上げの書類を学生課に出しに行く羽目になった。

 デカデカとふたりの名前の入ったサークル名は、やっぱり死ぬほど恥ずかしかった。





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