夜空に咲く大輪の花(百合)
いきなりそんな事を言っても都合よく花火大会なんてやってるわけがない、と思っていたのに、小雪は何本か電話をかけたかと思うと「ほないこか」と言ってのけた。
知り合いの花火師の打ち上げ試験を見学させてもらえることになったということだけど、毎度のことながら小雪の人脈はいったいどうなっているのか、謎が深まるばかりだ。
「やっほ~サカエのおっちゃん。ムリ聞いてくれておおきになあ」
「いいってことよ、小雪ちゃんに頼まれちゃあ」
いかにも、という感じのねじりハチマキに法被の親方が片手を挙げて小雪に応える。
というわけで、わたし達は晩夏の夕暮れ、とある湖のほとりにいた。なんとも手際のいいことに人数分の浴衣やらりんご飴、果ては綿あめ製造機まで用意してきた小雪に呆れながらも、ありがたく試作花火の打ち上げを待つ。
ひゅるひゅる、と上がってきた六尺玉が弾けて、夜空に大輪の花が輝く。遅れておなかに響く音。
他に人がいない中見上げる花火はとても迫力があって、そして綺麗だった。
「ほら、のぞみちゃん。『……キレイな花火……』って言わんの?
ウチが『キミのほうが綺麗だよ』言うたるから、顎クイつけて」
言いながら、顔を覗き込んで顎に伸ばしてくる指をはたいて睨む。
ウザったい笑顔を向けてくる黒地に白百合を染め抜いた浴衣の小雪。いつもは下ろしている髪を二つのお団子にしている。花火のきらめきを反射する瞳に、妙に引き込まれてしまうから、意識して顔をつんと逸らした。
「……誰が言ってやるもんですか、さんざ笑ったクセに」
暗いから、赤くなった頬は分からないだろうけど、綿あめで視線を遮った。
「あ、あの、お二人とも……!」
「お、どしたんなんかひらめいた?」
はるもみさんが、意を決したように口を開いた。
「はい……! 閃きました!
お二人を、漫画のモデルにさせてください!
ぜったい綺麗な百合の花火が咲きますからっ!!」
まくしたてて、頭を勢いよく下げる彼女に、
「お、ええなぁ」
「……へ?」
間抜けな反応をしたわたしの頭上で、ひと際明るく大きな花が咲いた。
後日、白い髪と黒い髪のヒロイン二人が花火デートする漫画はけっこうウケたのだとか。
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