夜空に咲く大輪の花(百合)

キミのほうがキレイだよ?

『キレイな花火……』

 

 少女の手にした綿菓子のようなフキダシに、走り書きでセリフが踊っていた。


「と来たら、きちゃない花火も出さなあかんなあ」

「アンタ、ふざけてるワケ?」


 下書きの原稿を読むなり、にやにやして妙なことをのたまう小雪をじろりと睨む。


「わざわざ相談しに来てくれたんだから真面目にやんなさいよ」

「小雪ちゃんの小粋なジョークやんかのぞみちゃん~。ほら、はるもみちゃんも肩の力抜けたやろ」

 

 相談者の、漫研部員の女子大生、春咲紅葉もみじ――小雪のねじくれたセンスではるもみと呼ばれている――が困ったように笑う。おさげの頭には深緑のベレー帽に大きな丸眼鏡。形から入るタイプなのかもしれない。

 小雪の立ち上げた二人きりのサークル『こゆきとのぞみのお悩み相談室』の活動。

 大学の近くのカフェで今回受けた相談は、恋愛漫画の展開に行き詰まったとのこと。


「それで、ヒロインの『キレイな花火』ってセリフの後の展開がどーしても思いつかないんです」


 頭から煙が出そうな様子で、彼女は俯いた。聞けば、今日明日にはネームを切らないと〆切に間に合わないのだそうだ。


「この後の展開ね……ヒロインのセリフを聞いて男はどうするか、よね……

『キミのほうがキレイだよ』、とか……?」


 わたしが首を捻りながら口に出すと、隣でアイスコーヒーに口をつけた小雪が口に手を当ててなにやら必死にこらえる仕草をしてから、音を立てて飲み下した。


「ぷっは!!

あー、吹きだすトコやったわあっぶな、くるしー……。急に笑かさんといてのぞみちゃん。ベッタベタなセリフやないの。あー、さてはそーいうシチュ憧れなんやな~?」


 瞬く間ににんまり顔になってこちらの頬をつついてくるので、わたしは顔をしかめる。

 原稿に向けて吹き出さないよう配慮出来るクセに、こういうとこはウザい事この上ない。さんざん不満を言いながらコイツのやることに結局付き合ってしまうわたしもたいがいだけど。


「あ、あの……」


 ポカンと口を開けるはるもみさんに、慌てて意識を切り替える。


「あ、ごめんなさい。コイツにも真面目に考えさせるから。ほら、笑うならアンタもアイデア出しなさいよ」


 小雪を肘で小突きながら言うと、ヤツはムダに整った顎にわざとらしく手を当てた。


「ん~そうやなあ。ウチらはシロウト、ここであれこれ言うたかて限界あるやろし。

ホンモノ見てから考えへん?」

「「ほんもの?」」


 首を傾げた紅葉とわたしのセリフが重なった。



 

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