ガマンはよくないで?

「ずうっとソワソワしとったけどトイレ行きたいん?

ガマンはアカンでのぞみちゃん」

「違うわよ! アンタが変なサークル名つけるからでしょうが!」


 講師が大教室を出ていくなり嬉々として話しかけてくるこゆき――漢字では小雪と書くらしい――に反射的に噛みつく。

 入学式とオリエンテーションの間ずっとすました顔で椅子に収まっていたコイツに『こゆきとのぞみのお悩み相談室』なんて名前を考え直さないと活動に付き合わないと言ってやりたい衝動を抑えていた。他の新入生はこそこそ私語をしてたけど、わたしはそういうルールを破るのがどうも苦手だ。千里にはよく真面目過ぎると言われたものだ。


「ウチはええ名やと思うんやけどなあ」

「わたしはイ・ヤ・よ!

だいたいねえ……」


 言いかけて、ふと小雪の白い頭の向こうの新入生の女の子に目が止まる。

 広い講義室の端で、カバンの中身をひっくり返して青い顔で何かを探していた。わたしたち以外はみんな出ていった室内で、ひどく孤立して、そして困っているのははっきりしていた。


「ん? ああ……」


 わたしの視線に気づいた小雪は、首をねじってそちらを見やると、にっと口角を吊り上げた。


「な、のぞみちゃん。とりあえずあの子、助けたろ?」

「ええっ!?」


 確かに困っている様子が気になるけど……

 わたしが躊躇っていると、小雪は人差し指を立てて芝居ががった仕草で左右に振って見せた。


「ガマンはよくない、やろ?」

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