この受験(たたかい)が終わったら

 そいつは待ち構えていたようにわたしの手をガシッと掴むと、浮世離れしながらもムダに整った顔をずいと寄せて目を覗きこんでくる。


「なあ、この大学受かったらウチと一緒にサークルやらへん!?」

「……は?」


 その黒い瞳の、ずっと見ていると吸い込まれそうな底知れない深さにたじろいだものだから、何を言っているのか分からなかった。


「唐突になんなの?」

「キミのまっすぐでキレーな心根を惚れ込んだんや~。

 暗~いカオしとる誰かの悩みをふっとばして笑かしたろ!

ウチと、キミで♪」


 ばちん、と音がしそうなウィンクを決めて彼女は口の端を釣り上げて上機嫌に笑う。やたらと胡散臭い、なのに妙に目が離せない。


「……いや、わたしは別に人助けが得意ってわけじゃないし、今は目の前の試験しか考えられないわよ」


 はっきり言って買いかぶり過ぎだ。わたしはただの受験生だ。即座に断って邪魔だと追い払うべきだと思ったのに、たっぷり十秒ほどその顔を見つめていたのは、笑顔にひかれたから……ではないはずだ。断じて。


「じゃあ、ふたりとも無事受かったら考えてくれへん~?」


 今度は揉み手で上目遣いしながら問いかけてくる。困惑したわたしは、ずかずかとわたしの中に踏み込んでくるコイツが面倒になって言い返した。


「……いいわよ、受かったら考えてあげる。

それより受かる気があるならアンタもちょっとは勉強したら?」


 それきり、背を向けて参考書に向き直る。


「よっしゃ言質とったで。ほなウチも頑張るからよろしゅうな~」


 背中で聞き流す。午前の試験中コイツは半分ほど寝ていた。まともに受ける気がないか……よっぽど天才で余裕なのか。

 前者であって欲しいと頭の片隅で祈りながら、付箋とマーカーにまみれたページをもう一度見直した。


 



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