半分の消しゴム


 受験ノイローゼの悪夢に出てくる白紙の回答用紙よりも真っ白な髪。愉快そうな光をたたえた瞳。制服がない高校なのかぶっちぎりの不良生徒なのか、真っ黒のジップパーカーに真っ黒のジーンズ、これまた黒のスニーカー。どうして足元まで分かったかというと、長机の上であぐらをかいて座っていたからだ。

 あまりに周囲から浮いているからか、試験官も注意したりしない。


「さっき、消しゴム忘れた友達のために半分こしたってたやろ」

「……それがなに?」

 

 わたしは机に転がる文房具を一瞥してそっけなく返した。真新しい断面を見せるわたしの消しゴム。

 確かに、別の学部を受ける千里のために二つに切って渡したけど。それでなぜこんな変人に絡まれるのかわからない。


「あと、行きの電車で痴漢されとった見ず知らずの他校のコ、助けとったやろ」

「……見てたの?」


 少なからず気が動転したので忘れたいアクシデントに触れられて、わたしは慌てる。

 満員電車の中で単語帳のページをめくっていたら、目の端に見えてしまった。知らない制服のスカートが、ヤニで黄ばんだ手で撫でられているのを。    その女の子は片手で単語帳を落とさないようにして、もう片方の手はつり革を握っていて、小刻みに震えていた。

 試験に間に合わなくなるかもという弱みに付けこんで痴漢行為に及ぶ下品さに腹が立った。何より、こんなことで彼女の受験に差し障りが出るなんて見過ごせなかった。だから……


「あのナメ腐ったおっちゃんに土下座させたタンカは見ものやったなあ~、もっかい聞きたいくらいや。『アンタね、もしこの子が……』」

「ちょっと、やめなさいよ!」 


 勢いに任せて放った啖呵を再現されそうになって慌ててその口をふさごうと手を伸ばす。


 



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