四話
俺らって、一流には敵わない1
それから半月の間、マネとドール達はどこか警戒しながら過ごしていたが、マコトから連絡がくることも、ドール達に何か危害が加えられることもなかった。
一ヶ月も経てば、今回の誘拐事件は『偶に起こるアクシデント』になり、ドール達の間にあった緊張感も薄れていた。
その一方で、マネは曽良の行動をこまめに確認するようになった。
誘拐犯の一人かもしれないマコトと、唯一繋がりを持っているのだ。
しかし中々マコトや曽良がアクションを起こすことはなかった。
それが慎重さゆえのことなのか、今回の件と無関係だから当然のことなのかは、まだ判断がついていない。
だからあの晩に曽良がマコトに連絡を取っていたことは、他のドール達には伝えていなかった。
不確定な話題で、ドール達の仲を不安定にさせるようなことはしたくなかった。
けたたましい音で目が覚めた。アラームかと思ってスマホを取ると、曽良からの着信だった。
ここ最近注視していた曽良の名前に、マネは思わずベッドから転がり落ちた。
床に頭をぶつけた拍子に、カーテンの裾から高い日差しが漏れてきていて、昼に近い時間帯であることを知る。
起き上がりながら通話に出ると、アヒャヒャとひょうきんな笑い声が聞こえた。
『マネさん寝てたの~?寝坊だよ!早く起きて!』
「すみません……」
『声もガッサガサじゃん。酒灼け~?』
あなたのせいで、とはいえなかった。
『もう早く来て!ディランがインターンの選考通ったよ!』
「えッ?!」
二ヶ月前にせっせと書いていたレポートだ。大企業で選考倍率も高く、内心諦めていた潜入方法だったのだ。
マネがドールハウスに駆け込むと、佳樹が呑気に欠伸をしながら出迎えた。
「ディランさん、あの会社受かったって?!」
「あァ。らしいね。え、そこまで驚いてすっ飛んでくることなの?」
「いやだって……レポート通っただけでもスゴいですよ。去年の倍率なんか五十倍だって聞きましたし」
「そんなにスゴい会社なの?」
佳樹が口を挟み、マネのタブレットを自分の方に引き寄せた。
そして会社のホームページに辿り着き「ヘェー、ほォー」と感嘆した。
「株式会社GTコミュニケーションズ……IT企業なんだ。めちゃくちゃ大企業じゃん。
あ、俺この社長名前聞いたことある!世界長者番付載ってなかったっけ?この鷲見玄一郎って人」
「あー面接で会えたらしいよ。ずっと怒った顔してるおじさんで、前の順番の人泣いて出てきてたって」
「ヘェ怖いんだ」
「うん。でもゴルフの話したら盛り上がったってさ。素振りして見せたら笑って教えてくれたって」
「面接の数分間で?アイツのコミュ力さすがだなァ!」
「あんまり親しくなりすぎて、身分詐称してることバレないといいんですけど……」
「アヒャヒャ!大丈夫だよ。ターゲットじゃないからそんなに会うこともないでしょ?」
「今回のターゲットって社長じゃねェの?」
佳樹が顔を上げてマネを見た。佳樹は今回潜入するドールのサポート側に付いてもらう予定だった。
「世界長者番付に載るくらいの社長さんだろ?どっかの詐欺師が狙いそうじゃん」
「ええまぁ、クライアントが詐欺師なのは合っているんですが、ターゲットは違うんです」
マネは佳樹からタブレットを受け取り、仕事の資料を取り出した。
「今回の標的は人事部の『澤田栗樹』という男です。年齢は三十一で独身。社内では若いながら主任の役職に就いていて、主に採用を担当しているそうです」
「ふーん、大企業の若手エリートならお金余ってそうってトコか。詐欺師にしては堅実なクライアントだね。俺なら鷲見社長の一本釣りで一攫千金狙っちゃうけど。うわうわ!社長ってば財団の会長も兼任してんじゃん!」
「すごいよね~出身大学の学生向けに奨学金制度やってるって」
「ってかなんで俺より曽良の方が詳しいんだよ?!俺情報知らなさすぎじゃねェ?マネさん俺に対して報道規制かなんかしてんの?!」
佳樹の大声に曽良がアヒャアヒャと笑い転げる。
「ディランさんと佳樹さんに手を組まれると予定が狂うので……」
「組まねェよ!……んで?!そのインターンってのはいつからなんだよ!」
「来週だよねマネさん?今日は参加者と飲んでくるって」
「だから何でお前が知ってるんだよ?!んでもって始まる前から友達できてるディランもすげェな?!」
佳樹は火でも吹きそうな勢いで、マネと曽良に悪態をつくのであった。
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