始まりの脅迫と俺らの約束4
「うわああああ!」
梅川は足元を狙った狙撃に飛び上がった。
その拍子にコードが手から離れ――すんでのところで曽良が滑り込みキャッチする。
「あっぶね!」
その間に、木材の山に隠れていた叶楽と佳樹が降ってきてマネと琉愛の元へ駆け寄る。
手際よく二人の縄を解く姿にマネはポカンとしているが、琉愛は当然のように「もうちょっと早く来てくれないと」と口を尖らせた。
「文句言うんじゃないよ!簡単に捕まっちゃってさぁ」
「もっと緊張しろよなァ?なァにが『助けに来てくれるよ』だよ、甘え過ぎ!」
「だって来てくれるでしょ?」
「み、みなさん。どうして……」
開いた口が塞がらない様子のマネに、叶楽と佳樹はニヤリと笑い、琉愛はいつもの自慢げな顔をした。
「俺言ったじゃん。ちゃんと助けてくれるって」
背後で梅川がテーブルに駆け寄りスタンガンに手を伸ばすが、その手をダン!と背後から忍び寄ったディランが押さえつけた。
「ダメだよ。dollは丁重に扱わないと。バチが当たるからね」
自分より1.5倍近く大きそうな背丈の大男が突然現れたことに、梅川はたじろいでいるようだった。
ディランは背中を反らせてサングラスの奥でニヤリと笑い、怯んで動けないでいる梅川に頭突きした。
「あ″ッ!?」
まともに受けた梅川は白目を剥いて後ろに倒れた。
その体を曽良が受け止めてディランと二人で手際よく、先程までマネ達が縛られていた縄で縛り上げる。
「ハイOK」
「琉愛もマネさんも、怪我してない?」
あっという間の出来事にマネはまだ思考がついていけていなかった。
ドール達の動きには無駄がなく、いつもドールハウスでダラダラと喋っている様子とは正反対だ。
まるで普段から訓練でもしているかのような素早さである。
マネはコクコクと頷き、曽良に問いかける。
「曽良さんがみなさんに連絡を……?」
「連れてきてないよ?俺は二人が誘拐されたことを連絡しただけ。着いたらもう待ち構えてるんだもん~」
「だってさぁ、そんな一大事でジッとしてられるわけないじゃん?て思ってもう、ほら見てよ、俺らほとんど手ぶらで来ちゃってるからね!」
叶楽は両腕を広げて見せるが、隣の佳樹に「お前いつも手ぶらだろ」と突っ込まれる。
ディランが額を摩りながら辺りを見渡し、遅れて入ってきた哀に手を挙げた。
同じく周囲を警戒しながら入ってきた哀の手元には、本物らしき拳銃が握られている――先程の一発は哀のものか。
「周囲の確認オッケー。大丈夫だよ」
どこで手に入れたものだろう、とマネが不思議がる隣で琉愛が素っ頓狂な声を上げた。
「本当にこの人単独なの?」
コクリと哀が頷く。琉愛は佳樹の肩を借りながら首を傾げる。
「このお兄さん左耳にイヤホンしてるから、てっきり誰かと話してるもんだと思ってたよ」
「……ひとまずここが見える範囲には怪しいものは見なかったけど」
「そう……哀が言うなら大丈夫なんだね」
「ねぇみんなぁ。このお金どうする?」
叶楽は梅川が置いた『手付金』の前でしゃがみ込んだ。
いつもの依頼なら考えられないような破格の金額だ。お金好きの佳樹なら――とマネはチラッとみたが、本人はヒラヒラと興味なさそうに手を振っていた。
「いらねェいらねェ。早く帰るぞ」
そしてマネの視線に気付き鼻で笑った。
「マネさん、俺がこの金欲しがると思ったんだろ」
「いつもの佳樹さんならやりかねないと思って……」
「いらねェよこんな金」
佳樹はそう吐き捨てた。
ディランが間髪入れずに「時代はキャッシュレスだもんね」と口を挟み、吹き出した佳樹に小突かれる。
「現金だから嫌だとか口座に振り込んで欲しいとかそういう意味じゃねェから!殺しの依頼で、しかも琉愛とマネさん人質にしたやつの金なんて汚くて触りたくねェって意味!」
「アァそういうことね!」
ディランはわざとらしく手を叩いて豪快に笑い声を上げた。
哀が静かに「叶楽も触るなよー」と声をかけてその横を通り過ぎていく。
「ほーい」
叶楽も子どものような返事をして哀についていった。
外では何やら琉愛が文句を言っているらしく曽良を困らせていた。
「えぇ?誰も車で来てないの?ってことは歩いて帰んの?ダルいなぁ」
「我儘言うなよな~ボンボンめ」
「タクシー呼ぶのはどう?」
「怪しまれるからダメ~」
いつも通りのドール達の様子を見て、マネはやっと肩の力が抜けるのを感じた。
七人で倉庫街を歩いて帰る。
途中で見廻りの警官とすれ違い、暫くして遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
その頃にはドールハウスの近くまで帰ってきていた。
そういえば、とマネは哀を振り返った。
「哀さん。その拳銃、どうやって手に入れたんですか」
「んぁ、これ?」
市中で堂々と、哀は空に向けて躊躇なく引き金を引いた。
わっ!と琉愛が大声を出したのにつられて、マネは耳を塞いだ――が、発砲音は聞こえなかった。
恐る恐る目を開けると、銃口からは水が噴き上がっていて、ドール達が笑いを堪えていた。
「俺らが本物の銃なんて持ってるわけないよ。ていうか触ったこともないしね!」
いつものようにケロッとしているドール達の様子にすっかり安心し、マネは忘れていた。
ドール達が乱入する直前の窓を割った一撃。
哀が今手に持っている拳銃が偽物だとしたら、あれを放った拳銃は一体どこへいったのだろう。
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