第59話 決闘の練習④

 サクは取り敢えず自身の杖をポーチから取り出すと、それをアレックス先生が並べたかかしの方へと向ける。


「【インパクティア】!」


 サクが呪文を詠唱しながら杖を振ると螺旋を描きながら魔弾が放たれる。


 魔弾の形状は術者の種族や性格など、その人をその人たらしめるものに形成されるのだとアレックス先生の授業で学んだ。


 沙羅は河童だからか水飛沫のような形状の魔弾が放たれるし、先程のジェシカはデュラハンで死霊に近い種族だからドクロのような形状をした魔弾になる。


 ちなみにサクの魔弾は普通の球体なのだが、何故か真っ直ぐと飛んでくれない。グルグルと螺旋を描きながら飛んでいく。


 アレックス先生の様にかかしの腹をえぐるような真似はできなかったが、見事かかしの頭に直撃し、パシンッと快活な音がグラウンドに響いた。


「よし」


 入学当初の魔法を使えないサクはもういない。あの試験以降、大きく意識せずとも魔法を一定扱えるようになった。


 初めて扱う魔法だが、問題なく扱えるようで安心した。


「次、フウドな」


 サクに促されてフウドがのっそのっそとかかしの前に立つ。するとフウドは背中に背負った丸太を持ちあげてそれをかかしの方へと向けた。


「なあ、もしかしたらって思ってたけどそれがお前の杖なのか?」


「うん。そうだよ」


 何でもないようにフウドは答える。


「大変だな……でかいと大変だろ」


 杖は己の半身。風呂の時ですら目に見えるところに置いておくぐらいには携帯しておく必要がある。フウドの場合はそれが己の身長と同じくらいの大きさを誇る丸太なのだ。


「全然大丈夫だよ。むしろこれぐらい大きくないと失くしちゃうからさ」


 片手でグルグルと杖を振り回すフウドを見てサクは苦笑いする。よくあんなもの振り回せる。とんでもない怪力だ。彼ならば魔法なんて使えなくても十分生きていけそうだ。


「よーし、それじゃあいくぞー。【インパクティア】!」


 そしてフウドが魔法を発動させる。すると丸太の先からドンッと大きな音を立てて大砲の玉のような白い光の球体が放たれた。


 それは弧を描くようにかかしへと飛来。そして……。



 ドンッ!!



 白い魔弾ははじけ、砂煙があがる。


 砂煙の向こうからかかしだった藁くずや木の破片が飛んできてはサクの頭に降ってきた。


「……は?」


 その惨状にサクは唖然とする。


 放たれた魔弾はそれこそ大砲の様に大きな爆発を起こし、アレックス先生でさえかかしの腹を破る程度だったのに、かかしを木っ端みじんに吹き飛ばしてしまったのだ。


「よーし。それじゃ、今度はお互いに撃ち合って防ぐ練習をしよっか」


「待って?なあ、ちょっと待って?今から撃ち合いの練習するってちょっと待って!?」


 なぜフウドが他のクラスメイトからペアを組むことを断られたか分かった。理由は分からないが、どうやらフウドは魔法の威力が強いのだろう。


 別に普通の魔法練習なら問題ない。しかし、これは決闘の練習だ。杖で魔弾を撃ち落とせば問題ないかもしれない。じゃあ、それを失敗して撃ち損じたらどうなる?


 答えは簡単。木っ端みじん。


 あそこで哀れにも破裂したかかしのお友達である。


「せ、先生!ちょっとフウドとの練習は危険です!!」


 フウドよ。なぜ君はこの決闘の種目を選んでしまったのだと声を大にして言いたい。


 下手すれば死人がでる。


 しかしサクの嘆願をアレックス先生は無慈悲にも切り捨てた。


「愚か者め!決闘とは己の心と心のぶつかりあい。魂の輝きを試す神聖な儀式だぞ!?相手を拒絶するなど言語道断!私は決して許しはしないぞ!」


「死人がでますよ!?」


「そんなもの死んでから考えると良いだろう!?」


「死んだら考えれるか!」


 サクとアレックス先生のやり取りを他のみんなはどこか憐れむように見ている。


「ご、ごめんねサク君……」


 するとそのやり取りを見ていたフウドが申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「僕と練習、嫌だった?僕が無理強いしたばっかりに……」


「い、いや。別にお前と練習するのが嫌だってわけじゃ……」


「気にしないで。こういうの慣れてるから」


 や、やめてくれ。そんなことを言われてしまえばフウドがいたたまれないじゃないか。


 フウドは別に悪くない。むしろいい奴だと思う。悪いのは彼の魔法の強さだけである。


「いいよ、大丈夫。慣れっこだから。他の人と混じっておいでよ」


「……っ」


 サクの罪悪感がかられる。


 フウドの大きな背中が小さくなったような錯覚を起こした。


「ま、待ってくれフウド!」


 サクはどこかに行ってしまいそうなフウドを呼び止める。


「わ、悪かった!やろう!練習!」


「え…でも……」


「魔法だったらなんでもいいんだろ!?インパクティアじゃなくて、フリーバティにしよう!それなら誰も怪我しやしないから!」


「あ……そっか!凄いやサクくん、頭いいね!フリーバティなら空彼方へと吹っ飛んでいくだけだもの!」


「そうそう、吹っ飛んでいくだけ……って、は?」


「前の授業でやった時、僕の野球ボール飛びすぎて空彼方どっか行っちゃったんだよね。おかげで紫藤先生に怒られて」


「よし、インパクティアでやろう」


 もし、フウドの言葉が事実ならフウドのフリーバティを食らえばサクは空の彼方。そんな空高くへ吹っ飛ばされたならそれこそ落下の衝撃でサクはお陀仏だ。


「えぇ?でも怖いんでしょ?やっぱり僕じゃなくて他の人と……」


「いいから!ほら、撃って来いよ、魔法!全部俺が撃ち落としてやるから!」


 半ばやけくそである。


 初めて話したが、フウドは優しくていい奴だ。だからこそ、申し訳なくて仕方がない。


 彼自身は悪くないのだ、悪いのは彼の魔法の強さだけ。それだけで彼を邪険にしてしまうのはサクのちっぽけな良心が痛む。


 そうだ。落ち着け。ようは杖で防げばいいんだ。どれだけ強力な魔法でも杖ではじけば痛くない。


 ………………はず。

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