第58話 決闘の練習③

 グラウンドには同じく決闘に出場するクラスメイトがそろっていた。


 決闘に出場するのはサクをはじめ、エルフのエレナ、晴輝に絡んだライリー、その従者であるメイ、大柄な体を持ったフウド、デュラハンのジェシカに包帯男トミー、そして沙羅だった。


 決闘の練習を監督するのは西洋魔法学の教師、アレックス・ライト先生。


「はーっはっはっは!よく来た若き英雄たちよ!!」


 赤い髪を腰まで伸ばした彼は高らかに笑いながらサクたち生徒を見渡す。


「ここでは魔法大会に向けて、決闘の練習を行う!そこで君らにこの魔法を伝授しよう!」


 そう言ってアレックス先生は赤く光る杖を取り出すとグラウンドに立てられた大きなかかしに狙いを定める。


 そして息を1つ吸うと、素早く杖を振りかざす。


「【インパクティア】!」


 アレックス先生の杖から白い光が放たれる。それはまっすぐにかかしに向かって飛来。見事かかしを撃ち抜く。


 バシィン、という竹刀で叩いたような乾いた音が響き、かかしは真ん中から弾け飛んでその破片を地面に散らした。


「せ、先生!かかしの腹が吹っ飛んでるけど!?あんなの人に撃っていいんですか!?」

 

「簡単な衝撃魔法だ。これぐらいで人は死んだりしないさ」


 悲鳴をあげる沙羅に対して杖をしまいながらアレックス先生は告げる。


「使える魔法はこれ1つ。その他はコートを出なければ何をしても構わん」


「それでは、先に魔法を使った方が勝ちということですか?」


 するとエルフのエレナが先生に質問を投げかける。


 確かに、それだと西部劇の早撃ちと同じで先に魔法を放った方が勝ちということ。単純至極に分かりやすく簡単な種目だと思った。しかし、アレックス先生は首を横に振る。


「いや。そう単純なものでもない。例えばそうだな……ジェシカ・クロムウェル、私に何でもいい。魔法をかけてみろ」


「え?でも……」


「構わん。思いつかなければ【インパクティア】と唱えろ」


 そう言ってアレックス先生は杖を構えながらデュラハンのジェシカと向き合う。


 困ったようすのジェシカだったが、やがて覚悟を決めたように杖をアレックス先生に向ける。


「い、【インパクティア】!」


 ジェシカの杖からのドクロの顔の形をした光が放たれる。


 対するアレックス先生は怯んだ様子もなく放たれた光に向かって杖を振る。


 パシィン


 ジェシカの放った光がアレックス先生の杖に弾かれて残滓となって消える。


「う、うわぁ!消えた!」


「ふ。その通り」


 アレックス先生は得意げに杖をしまいながら語る。


「今やって見せたように、撃ち負けたとしても、魔法を防げば良い。杖は己の意志を放つ剣であると同時に己を守る盾でもある」


 杖は魔法を放つ為の道具であると同時に相手の魔法を防ぐ役割もあるということ。


 つまり決闘では相手の魔法を杖でいなしながら、自分の魔法を相手に当てることが目的となる。まるで的当てゲームだ。


「当然相手の魔法を弾くのにはそれ相応の技術が必要となる!なので諸君らで2人組を組め!今日はインパクティアの魔法の習得と魔法を弾くための練習を行うぞ!」


 2人組を組め……か。


 サクはクラスでグループを組むのが苦手だ。晴輝がいるなら問題ないが、いかんせん沙羅以外の人とそう仲良くはないのだ。


 なので寸分の迷いなく沙羅と組もうとした。


「沙羅、私と一緒に組もうよ」


「ん!いいよー!」


 ところが、ジェシカが先に沙羅に声をかけている。


 しまった。先を越されたか。そうなると誰に声をかければいいものか……。


 そう思っているとサクの背後に大きな気配を感じた。


「うおっ」


 振り返るとそこには中等部1年生にして身長180㎝はあろう大男、フウド・ロペスが立っていた。


「サク君。僕と一緒にやる?」


「え、いいのか?」


 サクにとっては願ってもない話だが、これまで一度も話した事がないフウドがなぜ?と思う。


 その疑問にはフウドが自分で答えてくれた。


「なぜかみんなに断られちゃって……もちろん、サク君がいいのならだけど」


「あ、あぁ!いいよ!むしろよろしく頼むよ」


 せっかく声を掛けられたのだ。これを活かさない手はないと思い、このままフウドとペアを組むことにした。


 しかし、いったいなぜ他のみんなはフウドとペアを組まなかったのだろう、と言う疑問が少し残った。

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