第55話 ピクニック④
ゴールデンウィークのピクニックは日が落ちるまで続き、桜の園に帰り着いた時にはもう完全に日が暮れて真っ暗だった。
出発前から作り置きしていたのだろう夕飯をアゲハさんが温めてくれているうちに全員で大浴場で入浴、一騒ぎした後で食堂で夕食を取ることになった。
「みなさん!今日は楽しかったですか?」
いつものように1年生メンバーで座っていると、アゲハさんがニコニコしながら話しかけてきた。
「楽しかったよー!!また来年行こうね!」
「んー。映えるからまたいきたーい。でも1人は面倒だから来年かなー」
「よかった!ではまた来年も行きましょう!そして、みなさんに私からプレゼントがあります!」
すると、アゲハさんが得意げな顔をしながら何かの箱をサク達に1つずつ差し出す。
何だろう、と思ってサク達が箱を開くと中には黒い四角形の形をした石板のようなものが入っていた。
「本当は、渡すか悩んだんですけど……今時の時代、そういった交友も必要でしょうから。悪用しちゃダメですよ?」
Mnect
魔法の世界で言うスマホみたいなものだ。ちょうど今日凪から教えてもらったそれである。
「やったー!本当にいいの!?アゲハちゃん」
「えぇ。元々晴影校長から預かったものですし、むしろ遅くなってごめんなさい」
「おぉ。これならエアボードの最新ニュースもすぐ調べられる!やったぜ!」
「凪、また使い方教えてくれ」
「んー、いーよー。あたしもこのMnect古くなってきてたからうれしーわ。ありがとアゲハちゃん」
サク達の反応を見て満足そうな顔をするアゲハさん。当然サクも自分のスマホなんて持ってなかったし、人生初のスマホ……ではないが、まぁ似たようなもの。
「じゃ!早速私達で番号交換っこしよ!」
「いーよー。あたしやったげる」
「え、私は別に……」
「いいじゃんドロシーちゃん!いつでも電話かけるから!」
「うーん……」
「翼先輩!番号交換しやしょう!」
「構わんぞ」
「あ、あはは……」
賑やかな空気に少し圧倒されながらもサクはどこか心穏やかな気がしていた。
最初は行くかどうか悩んだけれど、こうして行ってみればよかったところもあった。
新しい出会いと、新しい交流。そんなもの、サクには煩わしいだけだとタカを括っていた。だが、それはサクの独りよがりな思い込みだったのかもしれない。
賑やかな桜の園の夕食の中、1人それを眺めながらそう思った。
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