第47話 冷たい夜③
サクは落ち着いた後、昨夜の出来事についてアゲハさんに打ち明ける。
本当は「大丈夫です」とだけ言って何事もなかったようにしようと思っていたが、アゲハさんにそれがどうしてもできなかった。これまでの不誠実を挽回するためにも素直にアゲハさんを頼ることに決めた。
突然胸の奥が痛み始めたこと、胸の奥から暗い闇がにじみ出てくるような感覚に陥ったこと。
まるで心と呼ばれるその物が暗い闇に支配されて失われてしまうように感じたこと。まさに全てが失われてしまうと思ったその瞬間に、何か暗い影に包み込まれるような幻覚を見た。そしてそれをきっかけにサクの心を支配していた暗闇が晴れ、意識を取り戻したこと。
1つ1つ、サク自身も確認していくようにアゲハさんに伝えていく。
言葉にしていくにつれて、昨晩の恐怖がまた蘇ってくる。もしあのまま闇に心を支配されていたら?
今ここにサクはもういなかったかもしれない。アゲハさんに伝えていきながらその事実を改めて感じて震えが止まらなかった。
サクの話をアゲハさんは黙って神妙に聞いてくれていた。
そしてすべてを話し終えたとき、サクはふらりと医務室の布団に転がった。
「今でも思い返すと怖いです。あれ、いったいなんだったんですかね」
サクの質問に対してアゲハさんはただ黙って何かを考えこんでいる様子だった。
それはどこか顔色が悪くて、またともすれば泣き出してしまうそうな。そんな表情だった。
「アゲハさん?」
「……っ、ああ、すみません。少し考えちゃって」
サクが呼びかけるとようやくアゲハさんが答えてくれた。
「今までこんなことなかったんですけど、俺どこか悪いんでしょうか」
「そう…ですね。確かに調子は悪いのかもしれません」
普段はきはきとしているアゲハさんにしては妙に歯切れの悪いものを感じる。
それを誤魔化すようにアゲハさんはサクの額に手を当てる。
「今日は学校も休みですし、ここでゆっくり休んでいってください。熱は……36.1度ですね」
「え、わかるんですか?」
「ええ。管理人をなめちゃいけませんよ?こんなの朝飯前です」
「それはアゲハさんが凄すぎると思いますけど」
獣人は確か感覚が鋭いと前リアムが言っていた気がする。それ故の特技なのだろうか。
「ご飯は食べれそうですか?もし気分が悪いようでしたらおかゆでも作りますけど」
「いえ、普通のご飯で大丈夫です」
昨日の記憶を思い出すと気分が悪いが食事を食べれないほどではない。
ぐっと自分の胸を拳で叩きながら自分の体を確かめてみる。体に異常は感じられないし問題ないだろう。
それにせっかくアゲハさんが振舞ってくれた昨晩のトンカツも全部吐き出してしまって空腹だった。
「分かりました。それじゃあ準備ができたら持ってきますのでそれまでゆっくり休んでいてください」
そう言ってアゲハさんは医務室を出て行った。
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