第38話 浮遊魔法⑦

 次の日の授業。今の授業は【種族魔法学】。


 教鞭を振るうのはこの桔梗院の中で1番異質を放つ先生だった。


「では、教科書の14ページを開け」


 そうドスの聞いた声で告げるのは薄手の和服に身を包んだ中年ぐらいの男の教諭。名前はジーン・クロン。


 彼の何が異色か。一言で言えば全てだ。


 と言うのも彼の右前頭部からは白い大きな角が1本。耳はエルフのエレナのように長く伸びており右腕には骨折の時に巻くような包帯がぐるぐる巻きに巻かれていてその腕がどうなっているのか見えない。


 背中からは左だけコウモリのような翼が生えているし何やらトカゲのような尻尾まで生えている始末。様々な種族の特徴が彼の身体に浮き出ているように見える。


 これまで出会ってきたどの種族とも違ってどの種族のようにも見えた。


 ここではとにかく種族について学ぶ。


 どんな種族がいて、どんな特徴を持つのか。


 なんの種族にもならないサクにとっては面白い授業ではあるものの、今のサクにとってはそれどころではない。


 だって、魔法が使えないとそもそもここにいられないのだから。授業もどこか上の空で聞いているのか聞いていないのか、そんな感じだった。


「授業は聞いておくものだぞ?」


 その時、ギラリとジーンの目が光る。その言葉にサクはたまらずドキリとした。


 授業を上の空で聞いていたことを指摘されたのかと思った。


「【グラビアス】!」


「んのぁ!?」


 ジーン先生は呪文を唱えて杖を振る。すると杖から放たれた光は阿波護の教科書へと炸裂。阿波護の教科書が宙を舞い、ジーンの手元へと落ちる。


「さぁて、阿波護。説明してもらおうか?」


「あ、アイヤー……」


 阿波護の教科書の下から出てきたのはマンガ。しかも少し女性キャラの肌の露出が多い物。


 どうやらあれを読んでサボっていたらしい。自身のことではなかったのでサクは安心した。


「さあ、獣人が持つ【種族魔法】。言ってみろ」


「種族魔法……えぇ〜、何だったっけ〜」


「貴様は放課後居残りだ」


「あんまりさー!!」


 頭を抱えて悲鳴をあげる阿波護の姿にクラスから笑いが起こる。


 賑やかなクラスメイトの空気の中、またサクは気が重くなるのを感じた。

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