第34話 浮遊魔法③

 色々なことが頭をよぎったと思う。


 何で魔法が使えないんだ!?


 叔父さんに大見得切って出てきたのに、魔法を使えないなんてふざけた事あるか!?


 どうしよう、他のみんなはなんの問題も無く魔法を使ってみせたのに、恥ずかしい。


「何で……!?フリーバティ、フリーバティ!?」


 呪文を間違えた?まさか。みんなが唱える所はずっと眺めていた。間違えるはずがない。


 周りの景色が灰色になっていくような錯覚を覚える。


 耳には自分の心臓の音だけが響き、サクの目は地を転がる野球ボールしか映していない。


 喉が渇いていく感覚を覚えながら何度も何度もフリーバティの呪文を唱えるが、何度唱えても結果は変わらなかった。


「もういい。下がれ宗方サク」


「……っ、大丈夫です!ちょっと調子が悪いだけで……!絶対できますから……!だから」



「下がれと言っている!!」



 運動場に紫藤先生の怒鳴り声が響く。


 先程まで和気あいあいと過ごしていたクラスの空気は凍りつき、サクも返す言葉を失ってしまった。


「……君の事情は分かっている」


 先生はサクにしか聞こえない声でそう告げる。


 サクの事情。多分、これまでサクが魔法とは無縁の生活を送ってきたことだろう。


「だが。魔法が使えないのは由々しき事態。ここは魔法の学校だ。魔法が使えないものを在籍させておく理由はない」


 それを聞いてサクの全身から汗が吹き出した。


 まずい。


 魔法の才能が無いと思われて退学になるのかも。そして叔父さんの元に送り返されるのかもしれない。


 どんな顔をして帰ればいい!?あれだけの啖呵を切っておいて、魔法の才能が無くて帰ってきましたなんて考えられない。


 他のクラスメイトの視線が痛い。


 恥ずかしくて、悔しくて。みんなの顔を見られなかった。


 消えてしまいたい。そう思った。


「……先生」


 その時だった。


「すみません。私も魔法使えないみたいです」


「何?」


「……は?」


 振り返ると、そこには真っ白な杖を構えたドロシーがそう言って杖を振っていた。


「フリーバティ」


「…………」


 ドロシーの言う通り、呪文を唱えてもドロシーの杖は反応を見せずただ虚しく杖が空を切る音が響くだけだった。


「ふむ……宗方サク、ドロシー・ゴーン。まさか2人も魔法を使えない者が出てくるとは」


 紫藤先生が頭を抱えながらそんなことを零す。


「あ、あちゃー……まぁそんなこともある!なんくるないさー」


「そっ、そうだよ!ドロシーちゃん、サクくん!気にしちゃダメだって!」


 すると、阿波護と沙羅が凍りついた沈黙を破るように声をかけてくれる。


「きっと、調子が悪いだけですよ先生。もう一度2人にチャンスをあげてください」


「そうだな……」


 咲が先生にそう嘆願してくれる。それを聞いたあやめは少し考える仕草を見せた後。


「貴様らは後日改めて補習を行うこととしよう。そこでもう一度貴様らの魔法使いとしての素質を問う。そこでも素質がないと判断されれば……校長とその後を検討せねばならん」


 そう、サクとドロシーに宣告した。

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