第31話 クラスメイト③

 初の登校日を終えたサクは人気のない食堂で1人項垂れていた。


 食堂の振り子時計が音を立てながら一刻一刻を刻むのを確かめながら今日の出来事を思い返す。


 個性しかないクラスメイト達とこれから一緒にやっていかなければならない訳だ。


 しかし、普通の人相手にもどこか疎外感を感じていたサクが果たして彼らとうまくやっていけるのかという漫然とした不安がサクの胸を渦まいていた。

 

「あら?」


 そんなことをしていると洗い物を終えたのかタオルで手を拭いているアゲハが調理場から顔を出した。


 他に誰もいないこともあってアゲハさんがサクの方へと歩み寄って来る。


「お疲れ様でしたね、サク君。学校はどうでした?」


「ちょっと疲れました」


「あら」


 素直な感情を吐露するとアゲハさんは当然のようにサクの隣に腰掛ける。


「何が疲れたんですか?」


「いや……別に深い意味は……」


 まさかここまで聞かれると思っていなかった。焦りながら返事を濁す。


「ダメですよ、サク君」


 はぐらかそうとするサクに対してアゲハさんは頬を膨らませた。


「悩みや辛いことはちゃんと言葉にしないと」


「悩みとかそんなんじゃありませんって」


「じゃあそんなんじゃなくてもちゃんと言葉に出してみてください」


 サクの頬が熱くなる。


 悩んでいるとか、不安に思うことを悟られるのが恥ずかしかった。


「いや、いいですよ。そんな悩みを聞いてもらうほど子どもじゃありません」


「サク君。辛いことを隠すことは大人じゃありませんよ」


 アゲハさんの指摘にサクは目を逸らす。


 そんなことを言われても、サクだって年齢的にはもう中学生。それに叔父に大見栄切ってこの桜の園に飛び出してきたのだ。


 こんなことで負けてはいられない。これぐらいのこと、乗り越えないといけない。


「大丈夫ですから、そろそろ部屋に戻ります」


「サク君」


 アゲハさんがサクに何か言おうとするが、サクは会釈だけ返して部屋へと戻ることにした。


 アゲハさんに甘えてなんていられない。これから1人でやっていける様にならなければならなければ、きっとこれから先やっていけるはずなんてないのだ。


 暗い廊下を歩きながら信玄とのやり取りを思い出す。


 あの時のむしゃくしゃした感情がまた心の底から湧き上がってくる。


 そうだ、やってやるって決めたんだ。


 俺だって子どもじゃない、もう中学生。立派な大人だ。


 子ども扱いする叔父さんを見返してやる為にここに来たことを忘れるな。


 1人でまた決意を固めながらサクは部屋に戻るのだった。

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