第26話 入学式③

 リアムの服を払った後、サクたちはここにやってくる時にくぐった鳥居へと足を進ませる。


 そこにノアの姿はなかった。


「うーん……勝手に行っちゃったみたいですね。桔梗院で習うまでは魔法を使っちゃダメなのに……」


 アゲハさん、大変だなぁとどこか他人事のように思う。


 あんな言うことを聞かない奴が寮に来て。そりゃあ寮母としての自信も無くしてしまっても仕方ないのかもしれない。


 この数日過ごしただけで分かる。若いのにアゲハさんは多分寮母としてすごい優秀だ。


 魔法があるとはいえ、寮にいる全員分の料理、掃除、洗濯物。全て1人でこなしているのだ。アゲハさんが杖を振り1人でに動く洗濯物や調理道具をたまに見かけた。


 しかも住み込みで働いているので実質不休である。前に一緒に洗濯物を干しながら大変なのではないかと尋ねてみたが「全然へっちゃらですよ」と笑顔で流されてしまった。


 それほどまでにアゲハさんは努力しているし実際すごい。


 だからあればっかりはノアの問題だ。事実ここにいるメンバーやサクもアゲハのことは一定信頼している。それは日々の生活を見ていても明らかだ。


 桜の園の問題児。正直サクはノアが嫌いだし関わりたくもない。まぁ、同じ寮というだけで関わることもないのだろうけれど。


「では……」


 そんなことを思っているとアゲハさんが杖を振る。


 鳥居の中央が渦を巻き、鳥居の文字もまた書き変わる。


 そこには書道家のような文字で【桔梗院】の文字が刻まれていた。


「それではいってらっしゃい、気を付けてきてくださいね」


 アゲハさんの声にみな我こそはと言わんばかりに渦の中へと飛び込んでいく。


 さて、俺も行くか。


 そんなことを思いながらサクも渦の中に片足を突っ込む。まだ苦手意識はあるが真っ直ぐ身体を保てば大丈夫、と自分に言い聞かせながら足を進ませる。


「………は持っ…………か?」


「…………ぶ」


「くれぐ…も、………………に…………ない……に……いしてく………ね」


「分…………」


「?」


 グルグルと渦をまくサクの背後で誰かの話し声が聞こえた気がした。誰の声だろう。


 誰が鳥居を潜ったかなんても覚えてないし、まぁどうでもいいことだろう。


 今はそれどころではない。ここで振り返ろうものなら初日から胃袋の朝食をぶちまけることになる。


 それだけはダメだと思いながらサクは前を向いて歩いた。

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