第10話 桜の園③

 サクが鳥居に飲み込まれ、夕暮れの中取り残された晴影と晴輝。


 人気のない鳥居の前で晴輝の大きな笑い声だけが響いていた。


「……先に行ってしまったか」


「……のようですね」


 目の前で起こった事態に晴影は呆気にとられたようでしばらく言葉を発することができないようだった。


 一方、あまりにも不用心なサクのまさかの事態に晴輝は思わず笑ってしまっていた。


「晴輝」


「はい、申し訳ありません」


 まだ収まりきらない笑いを何とか押し込めながら晴輝は息を整える。


「サク君はまだ魔法使いの世界に入ってきたばかりだ。こう言うこともある」


「はい。分かってます」


「その彼を嘲笑するなど、褒められたことではないぞ」


「いえ……別に彼を馬鹿にしているわけではありませんよ」


 側から見れば言い訳のように聞こえたかもしれない。だが、それは晴輝にとって決して嘘ではなかった。


 晴輝にとって、今日出会ったサクという人間が面白くて仕方ないのだ。それも悪い意味ではない。むしろいい意味で。


 これまで出会ってきた誰とも違う。それがまた新鮮で面白い。


「…………」


 そんな晴輝の様子を観察しながら晴影は思案する。


「お前には……良い刺激となるのやもしれんな」


「何のことです?」


「……いや、何でもあるまいよ」


 そう言うと晴影はサクの後を追うように鳥居の渦の中へと消える。


 それを確認した後、一度だけ晴輝は街を振り返る。


 太陽が沈み、暗闇へと支配されていく街を寂しげに眺めた後、晴輝も鳥居をくぐるのだった。

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