第3話 始まりと終わりの日③
教頭の説教を聞き流した2人は日がもう高くなってしまった街を歩く。
「あー……終わった終わった。相変わらずうるさいジジイだ」
「教頭は多分間違ってないんだよなぁ」
「なんでぇ。お前はあのハゲの味方か?」
「そんなんじゃないっての。……まぁ、世話にはなったけどさ」
いちいちうるさくて、細かいとは思うが教頭の言うことはおおよそ間違ってはいなかった。筋も通っているしどちらかと言えば問題があるのは信玄の方である。
ああして教頭に怒られるのも一度や二度じゃない。叔父が学校に行くたびにどやされるのが恒例だ。
それでも両親を失って叔父と2人暮らしをしていたサクのことを他の生徒に比べてとても世話を焼いてもらったという自覚はある。
でも、それまでだった。
普通だったら、もっと感謝したりするのかもしれない。そんな感情ですらサクは持ち合わせていなかった。自分の乾いた感情にため息が出てしまう。
ちなみに、信玄は家事はからっきしでサクが一通りの家事をやっている。それでも別にそれを苦だと思ったことはない。2人しか居ないし叔父は仕事で多忙の身だ。
その代わりという訳でもないが、信玄がサクに酷いことをしたことだってない。
だが信玄に振り回されるのは面倒だった。2、3日いなくなったり帰って来たと思ったら3日ほど寝込んだり。時には流血して帰って来たこともあった。
小2の時に何の仕事をしているのか、と気になって尋ねたが「くだらねえ雑用だよ」とすっぱり切り捨てられてその詳細は不明。サクもそれ以上聞くつもりもないのでそのままにしている。
そういえば親の仕事について調べる宿題が出た時には叔父の言葉そのままで「雑用」と書いて提出。信玄共々学校に呼び出されたこともあったような気がする。
そんな叔父ではあるけれど、別にそれで構わないと思う。なんだかんだ言って両親を亡くしたサクをこうして育ててくれているのだから。
「……っ」
「どうした?」
サクの胸に刺すような痛みが走る。そんなサクの様子に気がついた信玄が足を止める。
「……何でもない」
息を整えつつ、サクは顔を上げる。これはサクの体質のようなもの。
たまにズキリと胸の奥が痛むことがある。特に心臓が悪いわけでもなく、検査などで何か言われたこともない。
原因はよく分からないが、ものの数秒で収まるしサク自身あまり気にしていない。
「ならいい。それより卒業式も終わったことだ。寿司にでも行くぞ」
「おー」
やる気のない掛け声を返しながらサクは信玄の隣を歩く。
寿司は2人の大好物。始業式が終わったら祝いに寿司。運動会が終わったらお疲れ様の意味で寿司。週末食事に困ったら寿司……。
それぐらいには我が家に定着している外食だった。
というか、それ以外の外食に行くことがない。
このまま向かってもよかったが、少しでも早くこの堅苦しい服を脱いでしまいたかったのでまずは家に帰って楽な格好に着替えることにした。
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