アリスのココロ
万愁ミチル
第0話 プロローグ
私は、誰なんだろう……。
「今日から、キミはアリスだ」
「今日」……から? じゃあ、昨日までは……?
私の目の前で眠る、私によく似た女の子。
この子は……、だれ?
わからない……、わからないけど、なぜか胸の中がモヤモヤとする。
苦しい……。誰か、誰でもいいから…………、たすけて……。
「アリス? どうかしたか?」
「……っ!」
声をかけられた。
私の名前を呼ばれた。
その声がする方へと振り向くと、私よりずっと背の高い男の人が立っていた。
彼は私を知っているよう……。
だけど私には、彼が誰なのかがわからない。
どんなに記憶の中を探しても見つからない。
わからない。そのことが、また私の胸をモヤモヤさせる。
「……」
「ああ、またか……」
黙ったまま記憶の中を彷徨う私を見て、彼は何かを悟ったようだ。
なぜか悲しそうな、苦しそうな表情を浮かべた。
「どうして……?」
無意識に口から零れた私の言葉。
私には彼の表情の意味も、何一つわからなかった。
「わからない」という苦しみがどんどんと私の胸の中のモヤモヤを大きくする。
「耐えられない」……、そう直感した。
そう感じた私の目から水滴のようなものが一つ流れ落ちた。
その水滴は水なのに温かくて、一度流せば次から次へと目から溢れてくる。
拭っても拭っても、止めることが出来ない。
私には、何をどうすれば良いのかわからない。
苦しい……、はやく楽になりたい…………。
そう思って私は、目から溢れ出す水を拭い続けた。
すると彼は、私の両手を自身の大きな手で優しく包み込んできた。
「大丈夫だ。大丈夫だから、そんなに苦しまないでくれ…………、どうか、泣かないで」
「な……く……?」
「俺の名前はウィリアム・アルドリッジ。キミの……、アリス・エル・ムルタスの護衛騎士だ」
そう言って彼、ウィリアムは優しく笑った。
ウィリアムの言っていることはほとんど理解できないものだったけれど、いつの間にか私の胸のモヤモヤは無くなっていた。
「……大丈夫。わからないなら、知ればいい。俺が、キミを教えてあげるから……」
大きな瓦礫が多く散乱した見知らぬ地で、ウィリアムはそう言った。
……あれから六年が経って、私は私のことを色々と知ることが出来た。
だけどウィリアムはなぜ私が記憶をなくしたのか、なぜあの時私たちはあの場所にいたのか、それだけは何度聞いても教えてくれない。
私の中にいるあの子たちのことも……。
アリスのココロ 万愁ミチル @bansyu-michiru
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