3

 秀雄には見えなかったが、その下には男がいた。男は家も家族も亡くし、孤独だった。どうすればいいのかわからない。そして、家がないままここで寂しい日々を過ごしていた。


 突然、何かが落ちが音がした。男は驚いた。何が落ちてきたんだろう。全くわからない。男が落ちた方向に向かうと、そこには30代らしき男が倒れている。一体誰だろう。


「おい! 君!」


 男は30代らしき男を抱いた。その30代らしき男こそ、秀雄だ。だが、秀雄は意識がない。そして、頭から血が出ている。


「意識がない! 速く救急車を!」


 男は堤防に連れ出し、救急車を呼んだ。この辺りは全く人気がないし、通る車はない。とても静かな夜だ。


 秀雄は何をされているのか、全く知らない。ショックで意識がないのだ。




 秀雄は目を覚ました。結局死ぬ事ができなかった。どうして助かったんだろう。全くわからない。だけど、死ねなかったのは確かだ。


「あれっ、ここは?」

「気が付いたか? 病院だ」


 秀雄は横を向いた。そこには白衣の男がいる。おそらく医者だろう。医者は厳しい表情だ。目の前に自殺未遂をした男がいるからだ。


「結局、死ねなかったのか」


 秀雄は残念がっていた。本当は死にたかったのに、死ぬ事ができなかった。残念がった。どうして死ねなかったんだろう。そして、まだ生きている事が嫌だった。


「死のうとしてたの?」

「うん」


 医者は驚いた。まさか、自殺志願者だったとは。だから川に身を投げたのか。死ぬなんてとんでもない。もっと生きなければならないのに。


「死んじゃいかんぞ! まだまだ人生は長いんだろ?」


 だが、秀雄は何も言わない。あまりにもショックなんだろう。しばらく頭を冷やしてほしいな。


「まぁいい! しばらく反省したまえ!」

「はい・・・」


 秀雄は医者に怒られて、下を向いてしまった。もう生きたくないのに、結局また生きてしまった。まだ死ぬなと神様が言っているようだ。本当はもう死にたいのに。




 数日後、秀雄は外を見ていた。今頃、母はどうしているんだろう。きっと、近隣住民が介護をしているだろう。いつもそうで、東京にこれからもいれば、こんな事にならなかったのに。ここにまた帰ってきて、後悔していた。


 病室に1人の女がやって来た。その女はロングヘアーで美しい。秀雄は思わず見とれてしまった。この人は誰だろう。全く見当がつかない。


「ねぇ」


 秀雄は戸惑った。まさか、話しかけられるとは。全く面識のない人だ。


「あれっ、君は?」

「初めまして、お母様の世話をさせていただきます」


 お世話をする人? まさか、近隣住民だろうか? こんな人、近隣住民にいた記憶がない。まさか、東京に引っ越してからやって来た人だろうか?


「あなたは?」

「さて、誰でしょうね」


 だが、女は誰か明かそうとしない。どうして明かそうとしないんだろう。秀雄は疑問に思った。


「でも、お母さんの世話をしてくれるの? ありがとう」

「それに、インターネット、つないでおいたから、また執筆してね」


 秀雄は驚いた。必要ないと思われて、引いていなかったインターネットをつないだとは。きっと敏子を説得して、許可をもらったんだろう。感謝でしかない。これでインターネットがつながり、また執筆、更新ができる。本当に嬉しいな。


「う、うん・・・」

「どうしたの?」


 女は首をかしげた。更新したくないんだろうか? 更新を待っているのに。


 秀雄は戸惑っていた。この人、自分がネット小説家だと知っている。誰にも秘密なのに。どうしてだろう。まさか、秘密を知ってしまったんだろうか?


「どうして僕が小説を書いてるのを知ってるの?」

「どうしてだろうね」


 だが、女は何も言おうとしない。そして、笑みを浮かべている。笑みを浮かべている時も、可愛いな。


「き、君っ・・・」


 女な病室を出ていった。


「うーん・・・」

「どうしたんですか?」


 話しかけたのは、隣りの病室の老人だ。今さっきの話が気になったようだ。


「いや、何でもないよ」


 秀雄は笑い飛ばす。何もないような表情を見せている。本当はとても気になるのに。




 それから1週間後、秀雄は退院し、実家に帰ってきた。こうして家の前の道をまた歩く事になるとは。これからはしっかりと自分の足で、頑張って生きていこう。それが自分に課せられた使命なのだから。


「帰ってきてしまった・・・」


 秀雄は玄関を開けた。また実家に帰ってきた。無言の帰宅になると思ったのに、一言を言っての帰宅になった。


「あら、おかえりなさい。退院おめでとう」


 そこにやって来たのは、やはりあの女だ。まるで妻のような振る舞いだ。というより、本物の妻のように見える。どうしてだろう。


「えっ!? まだいるの?」

「うん。これから私が支えていこうと思ってね」


 女は笑みを浮かべている。秀雄はいまだに戸惑っている。一体あの女は誰だろう。


「ほんと・・・、なのか?」

「うん」


 秀雄は思った。本当に僕を支えてもいいんだろうか? こんなつまらない人生を送っている自分を支えようと思っているんだろうか?


 次に、秀雄は敏子の部屋に向かった。秀雄の姿を見たら、どんな表情をするんだろう。自殺しようとした秀雄を、どんな目で見るんだろう。とても気になる。


「お母さん、ただいま・・・」

「秀雄、つらかったでしょ? もう大丈夫よ。あの人がいるんだから」


 だが、敏子は何も言わない。なにも気にせずにこれからの人生、頑張っていけと言っているようだ。これからもっと頑張ろうという気持ちになれる。


「でもあの人、誰だろう」


 秀雄は考えていた。あの女は一体、誰だろう。母にも聞いてみようと思った。


「私もわからないの。だけど、今日から秀雄さんの世話をしたいって」

「そうなんだ・・・」


 だが、母もその女の事は全く知らない。ただ、秀雄の世話をしたいと言っているらしい。謎だらけの女だが、秀雄への愛情があるみたいだから許したそうだ。


「だから秀雄、今まで通り農業をやりながら、あなたの好きな事をやりなさい」

「ありがとう」


 秀雄は敏子の部屋を離れ、2階の自分の部屋に向かった。インターネットを引いてもらった。これからインターネットを楽しみつつ、更新を頑張ろう。


 秀雄は2階にやって来た。2階はあの時と変わらない。ただ、インターネットが引かれたぐらいだ。


「さて・・・」

「また書くの?」


 秀雄は振り向いた。そこには女がいる。女はいつものように優しそうな表情だ。


「うん」

「頑張ってね」


 女は秀雄の肩を叩いた。秀雄は久々にやる気が出てきた。もう恐れる事はない。自分は1人じゃない。女がいる。だから頑張ろう。


「わかったよ」


 秀雄は扉を閉め、机に向かった。これからまた新しい日々が始まる。そんな気がした。

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