4

 退院して以来、初めて買い物に行く事にした。もちろんあの女と一緒だ。一緒に買い物をすれば、怖くないだろう。そして、寂しくないだろう。


「買い物、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


 敏子に報告して、2人は買い物に出かけた。敏子はほっとした表情だ。誰かと一緒にいる秀雄を見て、秀雄は孤独じゃないんだと思った。これからもっといい関係を築いて、結婚まで至ればいいな。


 2人は車に乗った。車を運転するのは、秀雄だ。秀雄は仕事でトラックを運転していたためか、運転には自信があった。女もそれをわかっているようだ。


 2人はスーパーにやって来た。秀雄はスーパーを見て思った。久しぶりにやって来た。あの時と全く変わっていない。だが、不安もある。あいつがまた来るるかもしれない。またからかってくるかもしれない。だが、女がそれをカバーしてくれるだろう。


「さて、今日はこれを買ってくるんだな」


 秀雄は敏子からもらったメモを取り出した。今日はカレーライスだ。玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン、牛こま切れ、カレールーが書かれている。


「秀雄、こないだはごめんね」


 秀雄は振り向いた。そこには山本がいる。だが、山本は優しそうな表情だ。どうやら、先日の事を反省しているようだ。


「いいんだよ。これからそんな事をしなければいいんだよ」


 だが、秀雄は許した。秀雄は決して人を裏切らない、見捨てない。誰にでも友好的に接する。


「ありがとう」


 山本は車に乗って、家に向かった。秀雄はその車の後姿を見ていた。横にいる女はその様子をじっと見ている。この人が秀雄をいじめていた人か。すっかり反省したんだな。これからいい関係を築いていってほしいな。


 買い物を済ませた2人は、車に乗った。2人は嬉しそうな表情だ。徐々に一緒にいられる事に喜びを感じていた。秀雄は感じていた。この人となら、結婚してもいいな。そして、好きな事をより一層楽しめそうな感じがしてきた。


 2人は家に帰ってきた。2人はとても嬉しそうだ。今日はカレーだからだ。


「ただいまー」

「おかえりー」


 小さい声でではあるが、敏子の声が聞こえた。だが、秀雄は違和感を感じない。いつもこんな風に聞こえるからだ。


 秀雄は敏子の部屋にやって来た。敏子はいつものようにベッドに横になっている。だが、表情は元気だ。



「買ってきたのね。ありがとう」

「いじめていた子、謝ってきた」


 それを聞いて、敏子はほっとした。ずっとずっと気にかけていたけど、ようやく仲直りしたのか。自殺未遂をしたと知って、よほど言われたんだろうな。もうやらないと思ったんだろうな。


「そう。相当あの事でショックを受けたみたいね。私が注意したし」

「そうなんだ」


 やはり女が注意をしたようだ。この女、とても頼りになるな。この人と一緒なら、もっといい事が起きそうだな。


「久々の更新、楽しみだなー」


 女は楽しみにしていた。秀雄の書く小説がまた更新される事を。そして、また完結に近づく事を。


「えっ!? 僕の小説、知ってるの?」

「うん」


 秀雄は驚いた。更新が再開したのを知っていたとは。楽しみにしているのなら、もっと頑張らないとな。


「そうなんだ」


 秀雄は2階に向かった。女は1階に残り、晩ごはんの準備を始めた。


 秀雄はパソコンを起動して、執筆をしていた。退院して以降、執筆を再開した。そのペースは徐々ではあるが、以前のペースを戻しつつある。そして、もっといけるんじゃないかと思い始めている。これもあの女がいる事に影響しているのでは?


 秀雄は順調に執筆をしていき、いい具合まで進んだ。秀雄はため息をついた。今日もなかなか頑張れている。今夜はもっと頑張ろう。


「さて・・・」

「どう? 頑張ってる?」


 秀雄は横を向いた。そこには女がいる。女はエプロンを付けている。


「うん」


 秀雄は笑みを浮かべている。君のおかげで、何もかも救われた。そして、頑張ろうという勇気が湧いてきた。


「頑張ってね」

「わかった」


 女は秀雄の部屋を後にして、1階のダイニングに向かった。秀雄はその後ろ姿をじっと見ている。




 それから数日後、今日は金曜日だ。だが、そんな感覚はない。農作業を毎日している秀雄は全く感じていない。


「今日も疲れたなー」


 パソコンと向かい合っていた秀雄は、背伸びをした。今日もなかなか進める事ができた。今日はここまでにして、明日また頑張ろう。


 と、そこに女がやって来た。どうしたんだろう。


「ねぇ、今日、居酒屋に行かない?」

「い、いいけど・・・」


 秀雄は少し戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべた。久々に居酒屋に行けるからだ。実家に戻ってきて以降、居酒屋に行った事が全くなかった。


「ありがとう!」


 2人は、敏子の部屋にやって来た。家を留守にする時は、必ず報告しないと。


「今日、居酒屋に行ってくるの?」

「うん」


 敏子はテレビを見ている。居酒屋に全く興味がないようだ。


「楽しんできなさい」

「はい」


 2人は鍵を閉めて、居酒屋に向かった。敏子は窓から、2人の後姿を見ている。この2人は、いつになったら結婚するんだろう。だが感じている。その日は近いと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る