冷たい右目9

 俺は夜の空を飛んでいた。


 夜にはちゃんと色があった。

 世界はぼんやりと白く、イルミネーションの光を浴びて絢爛に輝いていた。


 そこはモノクロの世界だった。

 姫代さんの世界だった。


 林立した窮屈なビル群を飛び越えると、白い粉雪が降ってきた。


 俺は雪をかきわけながら姫代さんを探した。


 姫代さんはしきりに俺の名前を呼んでいた。

 どこか遠くから声が聞こえていた。

 そのうち声が近くなってきて、俺はやっと姫代さんを見つけた。


 姫代さんは公団の屋上にいた。

 姫代さんが手招きし、俺は嬉々として公団の屋上に降り立った。


 久しぶりに姫代さんと再会できたような気がして、その華奢な身体を抱き寄せたくなった。

 姫代さんは手を伸ばした。

 その手を掴もうと俺も手を伸ばした。


 だが、手と手が触れ合った途端、姫代さんは雪像になって脆く崩れ去ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る