第4章

冷たい右目5

 久遠は部屋の隅で両膝を抱えて蛹のようにじっとしていた。


 記憶は曖昧だったが、スマートフォンの元恋人との通話履歴が最悪の推測を証明していた。


 久遠は後悔していた。

 酔った勢いで大変なことをしてしまった。

 取り返しのつかないことをしてしまった。


 電話をかけても元恋人には繋がらない。

 留守電ばかりで、メッセージを残しても折り返されることはない。


 久遠はチャイムが鳴るのを待っていた。

 もうやってしまったという報告を聞き、過ぎたことは仕方ないと言って安心したかった。


 橙樺の人生は滅茶苦茶。

 家から出てくることもないでしょう。

 これでもう橙樺と会うことは二度とない。


 後悔は、ない。


 私はずっとそうやって橙樺を陰から貶めてきた。

 相談に乗りながら、橙樺の不幸を楽しんでいた。


 これでやっと罪悪感から逃れられる。


「全部あいつが悪いのよ……あいつが私より幸せになっていたから……」


 久遠は空き缶を握り潰して顔を伏せた。


 チャイムが鳴った。

 久遠はばっと顔を上げ、空き缶を蹴散らしてドアを開けた。

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