15.新たな装備

 樹季は学校の敷地内から出て雑木林に入ると、周りに人がいないことを確認し、学生服の内ポケットから腕輪を取り出して身に着けて、カードをスライドさせた。

 上空から光が降りてきて、樹季の体を青色の鎧が包んでいく。二回目なのでどうなるかはわかってはいるが、それでもどうにも奇妙な感覚だった。


『樹季、あっちだ』

 ――あっちって言ったって……。

 樹季は佐久夜の声を感じながら、どこへ向かうべきか考えた。すると、なぜか頭の中がクリアになって、シュラのいる場所が見えた。

 頭のない馬のような生き物が、山の中を走っていた。その体は蛭のようにも蛆のようにも見える黒い肉塊に覆われていた。それが体を揺らして走る度、その肉塊の一部が落ちて地面を腐らせる。


 ――そこか!

 樹季はその場所へ向かおうと考えた。すると、体が浮かび上がり霧となって消えた。

 目の前の景色が超高速で流れていく。

 気づけば、先ほど幻視していたシュラの実物が見えた。空気に浮かぶ粒になっていた体は移動を止めて一点に集まり、ファルヴェルンという存在に変身したらしい樹季を空中に構築する。


 樹季は木々の間を射し込む木漏れ日の中を走っていくシュラの、後方に離れた場所に着地した。シュラはまだ樹季の存在に気づいていないらしく、どこかへと進み続けていた。

 ――変身して移動って、こういう……。

 人外じみた現象に、よくよく考えると背筋が凍る。

 気持ちを切り替えて、樹季は武器を出そうと手をかざした。だが、後ろから呼び声がしたので手を止めた。


「待った待ったー!」

 振り向くと、雅古が駆け寄ってきていた。まだ変身しておらず、赤いTシャツに黒いダボパンという私服である。手には、カードが二枚握られていた。

「雅古。そのカードは?」

 樹季は変身を解いて、問いかけた。

 雅古は勢いよく立ち止まると、そのカードを一枚樹季に手渡した。


「辻って人から預かってきた新しいカード。せっかくだし、新しいフォームに変身して戦わん?」

「いいけど、使えるかな……」

「俺はさっき練習してきたから大丈夫だけどまぁ、樹季もなんとかなるっしょ」

 そう言って雅古は強引に樹季の背中を押し、シュラに向かって走り出した。


「そんな、適当な」

「ほら、変身!ってやつ。一緒に言おう」

 雅古が振り向いて、追いかける樹季に言う。

「まぁ、やるけど……」

 樹季は苦笑しつつ、カードを持った。

 雅古も勿体ぶったモーションをつけて、カードを掲げる。


「「変身」」


 樹季と雅古は、二人で揃って走りながらカードを腕輪の溝にスライドさせた。

 そして青色と赤色の光が降りてきて、二人を異形に変えた。


 樹季は髪の毛の逆立たせ青白く燃える鬼神を、雅古は赤いたてがみをなびかせる竜王を、それぞれ模したような姿である。


「宵闇に月を抱け! 群青!」

樹季が叫ぶと、何もない空間から剣が現れた。三叉に分かれた刀が柄の両端についた、前回とは違う独特の形の大刀だ。樹季は柄の中央を持ち、大刀を旋回させて構えた。


「駆け巡れ、猛き血! 蘇芳!」

 雅古も叫び、武器を出した。大きな金色の二つの輪が、雅古の両手に握られる。輪の外側には刃がついており、取っ手には白い布が巻かれていた。曲芸師のように、雅古はくるくると放り投げた輪を掴んだ。


 変身を終えた二人は、顔を見合わせた。お互い鎧に覆われている状態なので、奇妙な感じである。

 自信に満ち溢れた声で、雅古が叫ぶ。


「よっしゃ、行こうか!」

「そうだな」


 駆けて行く雅古の背中を、もう迷わずに樹季は追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る