第10話 獅子たちは亡霊騎士の出現を待つ
蓋のついたバスケットに、スモモとブラックベリー、それから昨日焼いたというクッキーを詰めて、
ほどなくして、六人は森の広場に到着した。端にはテントというよりは大人数が入れる天幕がすでに建てられ、その前の切り株にメトジェイが腰かけて帰還を待っていた。
「戻りました」
「お帰りなさーい」
先頭を歩いていたラドミラの帰還の報告に、メトジェイはにこにこと笑って答える。必要な
「こちらへどうぞ」
ラドミラは、
壁際に置いてある木箱には、衛士隊の備蓄食料からある程度の時間をここで過ごすための物資が置かれていた。
「レオシュさんたちも一旦こちらへ」
レオシュとオレクの二人は天幕へは入らず、メトジェイと何か情報を共有していたが、それを気にせずラドミラが三人を呼ぶ。手にしているのは、水の入った瓶だ。
「一旦喉を潤しておきましょう。多分そろそろあちらは痺れを切らすと思います」
「
「間に合ったようで何よりですよ」
天幕の中央付近に敷かれたラグに、親子を。天幕の内側にラドミラ、外のすぐにメトジェイ。レオシュとオレクは互いに距離を取りつつ、広場のやや天幕よりに立っていた。
「衛士隊の保存食名物、ブロッククッキーはいかがですか」
「それあれだろ。噛み砕く前に
「まあ多分そうなりますよね。いやそうなると程よく初撃に力が乗りますよ」
ライドミラとオレクの軽いやり取りを、緊張した面持ちで親子は見つめる。彼らの雰囲気を見るに、それほどの大事ではないのだろうか。いや、自分たちにとっては大事なのだが。
レオシュとオレクからいらないと言われて仕舞ったラドミラは、ブロッククッキーを今度はメトジェイに進めて緩やかにお断りされていた。まだ開封していないのでそのまま木箱に戻せばいいだけなのだが、なんとなくラドミラは家族へもすすめる。少し興味はあったが、
「ああ、来た、ねぇ」
少しうなだれながらラドミラがブロッククッキーを木箱にしまってラグの敷かれた場所に戻って来た頃、メトジェイがそんなことを言う。すでに軽い準備運動を終えていたレオシュとオレクはそっと位置を調整する。
「閉めますか?」
天幕の片側は開いていて、広場がよく見える。そうしておくことで、
「開けておいて、戦いを観戦することもできますが」
親子は顔を見合わせて困惑している。それもそうだろうな、とラドミラは急かす事無くゆっくりと待っていた。
「始まってからでも閉められますよ」
「ああじゃあ、それで」
代表して、父親がラドミラに言葉を返した。少し、見てみたいという気持ちもある。きっといい話のタネににもなるだろうし。
「さて始まるまでの間に、少し今後のお話でもしましょうか」
ラドミラは天幕の外と、それから親子の両方を視野に入れながら口を開いた。
「この戦いの後、すぐにではありませんがアバルカスまで足を運んでいただきます」
「アバルカスまで?!」
その驚きはもっともである。ハンブリナからアバルカスまでは移動方法にもよるが大体二十日はかかる。
「はい。アバルカスにある
「お、お断りすることは……?」
「構いませんが、そうしますと
アバスカルであれば、衛士隊の者が夕方迎えに行きそこで強制的に終了させることも出来るが、彼らが自らの意思と金でハンブリナまで来て親子に付きまとったとしても、衛士隊にできることなど何もないに等しいのだ。
「考えておいてください」
道中の護衛やらなんやら、実際詰めることもたくさんあるからすぐの出発ではない。ただ
「来たよぅ」
案外早く、それは姿を現した。
鳥の声はしなくなった。虫の声もしなくなった。
あるのはただ、静寂だった。
森の木々の間から、ゆっくりと、音もなく黒い鎧にその身を包んだ
「では、始めるとしようか」
レオシュはその背に負っていた
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