第5話 金獅子の出立

 カミロやクストディオとともに、レオシュとメトジェイもバルドゥィノの語りを聞いていた。カミロ自分たちの偉い人クストディオ衛士隊の偉い人はこれから忙しくなるだろうが、自分たちとは忙しさの種類が違うだろう。

 二人はブロントスを出た後、まずは自分たちの根城へと戻ることにした。以前は宿を拠点としていたが、仕事に出て戻ってくるたびに同じ宿に部屋がとれるとも限らず、それが知らずの内にストレスになっていたため、みんなで金を出し合って家を借りた。

 一人一部屋あって、庭に騎獣ダヴィーデクを置ける場所があればいい。ないなら、騎獣ダヴィーデクを取り扱う店が近くにある場所がいい。そうやって探す間はそれなりに楽しかった。


「皆いるか」


 ドアを開けてレオシュが声を上げれば、居間のソファにごろりと寝そべっていた青年が身を起こした。しなやかな鳥の足を持つ陽炎蹴族ドビアーシュのオレクだ。


「俺だけだよ。サビナは実家、シャールカは魔法学院ジシュコヴァーだ」

「そうか、オレクがいれば最低限はなんとかなるか」

「バルドゥィノが面白い話でも持ってきたのか」


 テーブルの上に散乱しているのは、オレクの夕飯だろう。それらをレオシュは手早く一か所にまとめ、地図を広げた。オレクは側までやってきて、地図をのぞき込む。


「ファハルドに、一年と少し前、亡霊騎士デュラハンが出たそうだ」

「そんな噂聞いたことないぜ」

「自分もないよぅ」


 のんびりと、メトジェイも追従する。レオシュは、二人に頷いた。


「つまり新参者の亡霊騎士デュラハンってわけだ」


 レオシュは強い。獅金族アダーシェクという種族もそうだが、彼は武者修行のために出てきている。そして貪欲に、獰猛に、強さを追い求めていた。

 それに何食わぬ顔でついて来ているオレクも同様に強い。


「しかしちぃと場所が悪くないか?」

「普通にいけばどうしても十日はかかるな」

「ハルフテルから、ショートカットすればいいよぉ」

「ま、そうなるわな」


 星蜥蜴族アベラルド大平原ウルタードで暮らす種族だ。どこをどう通ればいいのかを熟知しているし、メトジェイはそういう事が得意でもある。


「どうする? すぐ出るか?」

「いや、今夜は各自準備をして、明朝出立としよう。サビナとシャールカは、それまでに帰参すれば報告、しなければ手紙を残しておこう」


 三者は頷きあい、こうして支度は整った。

 実家に帰っていたサビナは参加せず。翌日昼に戻ってきて手紙を読んだ後は、戦いなれた人イバルロンドの支部に赴き任務受諾などの諸手続きを行った。

 翌朝三人の出立前に顔を出したシャールカは同行を拒否。そんな強行軍に付き合うのはごめんであった。代わりに大平原ウルタードを迅速に移動できるようにと各種呪符やらなんやらをたんと三人に持たせた。

 これは、衛士隊の誤算であった。彼らの到着を、もうちょっと遅くなるものと試算していたためである。だってまさか大平原ウルタード突っ切るだろうとは思ったけれど、迅速移動の呪符エリアーショヴァーまで使って、通常十日の距離を七日で走破するとは想像していなかったのである。


 朝。レオシュの黄金色の鬣を、朝日でさらに煌めかせながら、三人はそれぞれの騎獣ダヴィーデクを疾駆させていた。彼らの足なら、朝にアバスカルを出れば昼前にはハルフテルに到着する。

 腹ごしらえをして、大平原ウルタードへ。街道を爆走する際の先頭はレオシュであったが、ここからはメトジェイが先頭になる。迅速移動の呪符エリアーショヴァーを起動させて、その上でメトジェイは慎重に道を選んだ。

 大平原ウルタードに道はない。人や獣の踏み固めたあぜ道すらも、すぐに草が生えてしまうためだ。おそらく何かの魔術的な影響がうんたらかんたらと学者たちは言うが、その研究はまだ実っていない。


 三人を遠めに見かけた盗賊メルカドは、今日の仕事を仕舞にした。どこへ行くのかは知らないが、遠くからでもレオシュの黄金色のたてがみはよくわかる。あれはだめだ。こちらの仕事を気取られて、ついでに小遣いを稼いでいくかと思われたら、壊滅する未来しか見えない。しばらくの間、町へ行ってまっとうに金を稼ごう。

 同じように彼らを見かけた六本足の魔獣もそのまま両腕の上に顎を戻した。あれは食事ではない。食事にはならない。下手をしなくてもこちらが食事になってしまう。いや、あいつらが自分を食べるかどうかはわからないが、そういう類のものだ。

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