第3話 衛士隊詰め所

 カミロがバルドゥィノに仔細を聞いているころ、クストディオは足早に衛士隊の詰め所に戻ってきていた。


「お、隊長お帰りなさい」

「ブロントス行ってたんですよね? いいなあ」

「戻った。ラドミラはいるか?」

「はーい、おりまーす」


 昼番を終えた夜滑族ズラーマロヴァーの少女が、廊下の曲がり角の先から姿を現した。

 隊長室へと戻っていくクストディオはラドミラを手招きし、隊長室へと呼び込む。副隊長のラジスラフもそれに続く。隊務がない者たちは、距離をとって隊長室をのぞき込んでいた。確実に、何かあると踏んで。


「ラドミラにはこれから、ファハルドに飛んでもらう」

「今からですか?!」

「緊急の要件だ。――今から約一年前に、ファハルド近郊に亡霊騎士デュラハンが出た可能性がある」

「ブロントスで、そんな話が出たんですか」

「そうだ。仔細は今カミロが聞いてくれている」


 クストディオが行うべきは、まずはファハルドへの第一報。国への報告に、隣国への報告依頼。周辺諸国からの情報収集に、街頭のアンデットの情報収集だ。

 それからファハルドで亡霊騎士デュラハンに指名された娘の捜索指示。戦闘要員はすでにファハルドへ向かってくれているようだから、実際現地でするのは彼らの援護となるだろう。


獅金族アダーシェクのレオシュが同席していてな。すでに発っているから、お前はその補佐のために動いてほしい」

「いやいや、レオシュさんだって今日準備して明日の朝出発でしょうし、ファハルドまではどんなに頑張ってもすぐ着きませんって」


 すでに本日の仕事を終えて疲れているラドミラは上司にちょっとだけ異を唱えてみる。そのこと自体は、咎められはしない風潮があった。


「確かに出立は明日になるだろうが、奴は大平原ウルタードを突っ切るぞ」

「いやそんなまさか」

「相棒は大平原ウルタードの出身だからな。通れる場所は知っているはずだ」


 それに、お前が盗賊メルカドだとして、獅金族アダーシェクにケンカを売るか?

 クストディオにそう問われて、ラドミラは少し考える。たとえば自分に部下がいるとする。まあ、衛士隊の面々でいいだろう。自分が盗賊メルカドだとして、仲間たちより強い、ってことはそうそうないだろうし。


「あ、遠慮しておきますね。勝てる見込みがない」


 どれだけ仲間で物量で囲んで叩こうとしてまず無理だ。自分も含めて仲間たちの腰が引けているのが手に取るように見える。


「自分たちにできるのは、亡霊騎士デュラハンを倒せるレオシュたちのサポートだ。期日までに彼らが護るべき人を探し出しておく必要がある」


 現時点で、それが母娘の二人連れであることと、二人がハンブリナに住んでいた事しか分からない。引っ越していたらその足跡を追わねばならないのだ。急ぐ必要がある。


「ラドミラならば大平原ウルタードの上空をショートカットして、今夜の内にババーコヴァー、そこで一泊して翌日の内にはファハルドへと到達できるだろう」

「まあ、出来るか出来ないかで言えば出来ますけども……」


 かなりの強行軍であることに違いはない。よほどの有事でなければやりたくないが、よほどの有事であることも確かだ。


「助かる。出張費用や危険手当なんかもがっぽりつくから、悪い話ではないと思ってくれるとありがたい」


 クストディオ、ラジスラフともにほっとしたようにラドミラを見た。

 やはり、隊長副隊長がそろって危険視するほどの、有事なのだろう。


「準備に少し時間をください」

「ああ、こちらも書状の作成や、ババーコヴァーにラドミラが行く旨を伝える必要もある。こちらの準備が整ったら呼びに行かせるから、それまでは出立の準備を整え、自室で待機しているように」

「はっ!」


 隊長からの命令に敬礼で答えて、ラドミラは隊長室を後にした。


「ラジスラフはババーコヴァーやファハルドの衛士隊に連絡を取るための準備を頼む」

「承知致しました。本部への連絡機チェルヴィンカも立ち上げておきます」

「ああ忘れていた。文面を考えておくから、そちらも頼む。それから、カミロの使いが来たら通すようにとも伝えておいてくれ」

「承知いたしました。整いましたら、また参ります」

「頼む」


 隊長室を出たラジスラフのもとに、何人かの衛士が寄ってくる。ラジスラフは彼らに仕事を割り振ると、自身は連絡機チェルヴィンカの置いてある部屋と向かった。

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