言葉の後悔
羊丸
言葉の後悔
「俺さ、昔ひどいことをしたことがあるんだ」
会社の同僚である風間
「誰に」
同僚の鈴木
「……昔、さ。小学生時代からの女で同級生がいたんだけど。中学生の時によく男子と一緒にからかってさ。それもノリでね。ブスとか色々と、おまけに近くに寄んなって。ブスみたいな奴が俺のそばにくんじゃねぇって」
雅史は持っていた缶コーヒーを握りしめた。
「だけどさ、こう言っちゃあれだけど。俺本当は、本当はあいつのことが好きだった。いつも笑顔で、何よりも気があって。だけど、そんなことよりも仲間はずれにされるのが怖くてあいつのことをからかっていたんだ。いつもいつも笑顔でやめてと返すだけだった」
「……それで、その子は」
直樹はそっと質問をした。
「俺、他の同級生にあいつのことが好き勝手質問された時に本人の前でこう言ったんだ。"誰がこんなブスを好きになるか。ブスと付き合うだけで俺の品が落ちるに決まってる。そんなことを考えただけでも吐きそうだ”ってね。ひどいだろ」
雅史は自身の行動に呆れ笑いをした。
「そうか。それはひどいな。そのあとは」
「……そのあと、あいつは学校に来なくなった。家に行ったけど、いつの間にか引っ越していたんだ。あの時、どうして俺あんな事を言ったんだろって後悔していたんだ。だからさ、もしも会えたら、謝りたいなって俺」
雅史は缶コーヒーを見つめながら言った。
「そうか。でもさ、お前。なんならなんでそんなに平然と生きてんの?」
「えっ」
雅史は直樹の言葉に顔をあげると、その顔は真剣な表情を見せていた。
「どっ、どうし」
「反省しているなら、それなりの敬意を見せるはずだ。なのに、俺が見たところお前はそんな反省の色なんて見えやしない。だからこそなんだ。なんでお前は、平然と生きていきながらも家庭を持っているんだ。おまけに、なんで今そんなことを思い出したんだ」
直樹の言葉に言葉が出なかった。確かにそうだ。雅史は現在、他の女性と結婚をしている。
そして、なぜ彼女のことを思い出したかと言うと先月彼女が行方不明になったと言うことだった。親も彼女がどこにいるかわからずじまいでいたのだった。
それからなぜ彼女に行なった行動を今更思い出したのかも感じた。
「なんで今更思い出したのか知らないけどさ、一応言うけど、お前にひどく言われたその子は一体何をするかわからないよ」
「えっ」
「だって、今のところ彼女が怒りを聞いていないんだ。だったら尚更彼女はその怒りをいつかどこかで出すはずだよ」
直樹はそう言うと立ち上がった。
「あっ。それから念のためだけど、もしも彼女がイカれた場合の話。お前の大切な人にも危害を加える可能性があるからな」
直樹はそう言うとその場を去った。
直樹の最後の言葉に心臓の鼓動が速くなった。自身の言葉の原因で狂ってしまった場合、どうなるだろうとさえ感じている時、自身のスマホが鳴り出した。
言葉の後悔 羊丸 @hitsuji29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます