第8話

沙織が花凛のパソコンでの作業を続けている間、花凛は不安と期待の入り混じった心境で待っていた。部屋の静寂の中、沙織がキーボードを叩く音だけが響いている。数時間が経過し、ようやく沙織が深いため息をついた。


「花凛、これを見て。フォボスのコードの一部に、見覚えのあるパターンが含まれていた。」沙織は、スクリーンに表示された複雑なコードを指しながら話す。花凛はそのコードをじっと見つめ、理解しようとする。


「見覚えのあるパターン?それって…?」


「うん、これには昔のプログラムの一部が含まれている。私が以前扱っていたセキュリティシステムのコードと似ているわ。」沙織はそのコードをさらに詳しく解析し始めた。「このプログラムは、特定のアルゴリズムを利用して情報を盗み出すように設計されているみたい。」


「セキュリティシステムのコード?それって、あなたが過去に使っていたものなの?」花凛は驚きと疑問が入り混じった表情を浮かべる。


「そう。私が以前関わっていたプロジェクトで、情報の保護や暗号化に使っていた技術よ。」沙織はしばらく考え込みながら、スクリーン上のデータを操作していく。「でも、これがどうしてここにあるのかはわからない。」


花凛はさらに質問を続ける。「それって、誰かがあなたの技術を悪用しているってこと?」


「その可能性が高いわね。フォボスのコードには、私が関わったプロジェクトのセキュリティ機能を無効化するためのトリックが組み込まれている。」沙織は画面をじっと見つめながら、さらに深刻な表情になった。「そして、これを作成した者は非常に高度な技術を持っている。私たちが今対処している問題は、単なるウイルスやハッキングとは次元が違うわ。」


「じゃあ、どうすれば…?」花凛は心配そうに尋ねる。


「まず、フォボスのコードがどこから流入してきたのか、その出所を追う必要があるわ。それがわかれば、どう対処すべきかの手がかりが見つかるかもしれない。」沙織は自信を持って答えるが、その眼差しには依然として不安が漂っていた。


「わかった。何か手伝えることがあれば言ってください。」花凛は決意を込めて言った。


「ありがとう、花凛。」沙織は感謝の意を込めて微笑む。「まずは、このプログラムの分析を続けて、私の過去に関わる手がかりを見つけてみるわ。」

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