人間よ、打ち出の小槌になるなかれ
加賀倉 創作
第一話『むにょむにょハンマー』
六歳の
「父さん、あの時代には珍しく国立大学を出て、
金恵は、横長の硬い冊子をパラパラとめくり、そう言った。
「いやあ、本当に。そのおかげで、お義父さんの預金口座には……」
隣に座る宝助の口元は、やや緩んでいる。
金恵の実父、
「本当にすごい額よね。一、十、百、千、万、十万、百万、一千万……もうすぐで、一億。でも、まだまだ増えるわ。老齢基礎年金の約六万円と、老齢厚生年金が最高額の三十万円強。合計三十六万円が毎月入ってくるんだから。ああ、数年後の相続が楽しみっ」
金恵はウキウキしながら、指を一本ずつ折り曲げていく。
「これほどの資産と収入のある
宝助は、通帳を覗き込んでそう言った。
寝転んでいた透が、ムクっと立ち上がる。
「うおー! トール・ザ・ストロング、かっけー! いけ! むにょむにょハンマー!」
透は、分厚い漫画本を武器に見立てて、
「透ちゃん、ちょっと静かにしてちょうだい。今お父さんとお母さん、大事なお話をしてるから」
金恵の声には、温もりがこもっていない。
「へぇ、なんのはなし?」
何も知らない透は、無邪気に尋ねる。
「えっと、それは……透にはまだちょーっと難しい話かもしれないわ。そうよね、あなた?」
金恵はそれとなく誤魔化しつつ、宝助に助けを求める。
「うん、お父さんもそう思うなあ……そうだ透、父さんが巨人の悪魔になってやろう。おい、雷神トールよ! 我輩と勝負しろ!」
宝助は立ち上がって、奇妙な動きで透に近づく。
「うーん、いまはいいかも。マンガのつづきが、きになるんだー」
透は再び寝転んでしまい、両手で漫画本を持ち上げて、バッと広げた。
「お、おぉ、そうか」
透かされた父親は、しょんぼりして妻の隣に
「ちょっとあなた、相手にされてないんじゃないの?」
金恵は、宝助の脇腹を肘で小突く。
「参ったなあ……ま、それよりも、計算の続きをしよう」
「そうね」
〈第二話『打ち出の小槌』に続く〉
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