第2話 とある空の上で
「うわぁぁぁ!!!」
僕は声にならない叫びを上げながら、必死にミリアの腰にしがみついていた。冷たい風が頬を叩き、足元にはどこまでも広がる空――地面が遠すぎて、足がすくむ。
「ふふ、思った以上に怖がりだね、ノリト。しっかりつかまって!」
ミリアは愉快そうに笑いながら、杖を操る。彼女にとっては空を飛ぶのは日常茶飯事なのだろうが、僕にとってはこの世の終わりのような体験だ。
「ちょ、ちょっとスピード落としてよ! 死ぬ、絶対死ぬから!」
僕は涙目で叫ぶが、ミリアは余裕たっぷりの声で答えた。
「大丈夫、ちゃんと魔法で保護してるから、落ちても死なないよ。でも、落ちたくはないでしょ?」
言葉だけは優しいが、まったく安心できる気がしない。それでも、僕には選択肢がなかった。もう一度、足元を見て、ゾッとしながら再びミリアにしがみつく。
「ふぅ……ようやく町の外に出たね。これからは、魔力を温存してもう少しゆっくり飛ぼうか」
ミリアはそう言うと、徐々に高度を下げ、速度も少しだけ緩やかになった。僕は何とか呼吸を整えながら、ようやく落ち着きを取り戻す。
「……本当に日本に帰れるかな?」
ふと、僕は疑問を口に出してしまった。ミリアは少しの沈黙の後、答える。
「さっきも言ったけど、確実じゃないよ。でも、旅を続けていれば、きっと何か手がかりが見つかる。諦めるにはまだ早いでしょ?」
彼女の言葉には、不思議と説得力があった。何かに導かれているような感覚。それに――
「うん、そうだね。今は信じるしかないか……」
僕は微笑みながら彼女の背中を見つめた。ミリアはどこか孤高で、強い意志を感じさせる。きっと彼女も、自分自身の旅の目的を探しているのだろう。
「さて、次の目的地は東の山脈だ。あそこに住む賢者なら、何か知っているかもしれない」
ミリアが指差した方向には、遠くにそびえる巨大な山々が見えた。険しい道のりになりそうだが、今は進むしかない。
「覚悟してね、ノリト。ここからが本当の冒険の始まりだから」
僕は再びミリアの腰にしがみつきながら、心を決めた。どんな困難が待ち受けていようと、僕は日本に帰るため、この旅を続けるしかない。
ミリアの杖は再び空を切り裂き、僕たちは東の山脈に向かって飛んでいた。風が冷たく、肌を刺すような感触がしたが、僕の心は不思議と落ち着いていた。
「ミリア、賢者ってどんな人なんだ?」
僕は彼女に尋ねた。異世界に来てから、見慣れないものばかりに囲まれているせいか、興味が尽きない。賢者なんて、まるでおとぎ話に出てくるような存在だ。
「うーん、そうだね。彼は『知識の山』って呼ばれてるんだけど、正確には山そのものが彼の家みたいなものかな。賢者自体が山の中に住んでいるわけじゃなくて、山そのものが生きている……って感じかな」
ミリアは少し説明をためらいながらも、僕に答えてくれた。
「生きている……山?」
そんな奇妙な話、信じられない。でも、異世界に来た時点で、何が現実で何が夢かなんて、もうわからなくなっていた。
「そう。賢者は何千年も前からそこにいて、世界中の知識を蓄えてるらしいよ。ただし、彼と会えるのは本当に選ばれた者だけ。何か重要な目的を持っている人にしか姿を現さないんだって」
ミリアの言葉に、僕はますます興味をそそられた。僕が日本に帰るための手がかりを得るには、その賢者に会うしかない。
「つまり、僕たちがそこに行っても、賢者に会える保証はないんだね?」
僕は少し不安になりながら尋ねた。もし賢者に会えなかったら、また手がかりを失うことになる。
「そうだね。でも、君の願いが強ければ、賢者も応えてくれるかもしれない。少なくとも、諦めるにはまだ早いよ」
ミリアの言葉は、僕に一筋の希望を与えてくれた。
この旅、魔女にお世話になります🧹~異世界に転生したら元の世界に帰れません(泣)あ、通りすがりの魔女さん。僕を日本まで連れて行ってくれませんか?~ ぬがちん @ryo1412
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この旅、魔女にお世話になります🧹~異世界に転生したら元の世界に帰れません(泣)あ、通りすがりの魔女さん。僕を日本まで連れて行ってくれませんか?~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます