この旅、魔女にお世話になります🧹~異世界に転生したら元の世界に帰れません(泣)あ、通りすがりの魔女さん。僕を日本まで連れて行ってくれませんか?~
ぬがちん
第1話 日本までお願いします
「『日本』に帰る旅をしてます!!! どなたか、僕を『日本』まで連れて行ってくれませんか!!!」
僕は
ノリとテンションで覚えて欲しい。
簡潔に言うと、
数か月前、僕は異世界に転生してしまった。
生まれたばかりのような眼差しで辺りを見渡せば、ルネサンス風の建物に挟まれた路地だった。
木骨組みを使った中世ファンタジーを思わす美しい建物が軒を連ねる。
だけど僕の地元はノスタルジーな木造住宅群が密集して、異国情緒など感じる余地がない。この時点で別世界だ。
更に路地を割った先の大通りでは、怪しいローブを着た老人が通り過ぎた。
また鮮やかなエプロンドレスを着た女性は、マリーアントワネットを想起させる盛り髪にジュエリーやら装飾を施してある。
あるいは甲冑に身を包み隊列を成して闊歩する男たちなど多種多様。ここはハロウィンの渋谷だろうと何度も言い聞かせていた。
違う。
ここは日本じゃない。
ついでにヨーロッパでもなければ、僕の知る世界の国とも違う。
異世界へ来てしまったのだ。
なのでこの数日間、ヒッチハイクをして元の世界へ帰ろうと画策していた。
「兄ちゃんどうした?」
やっと人が立ち止まってくれた!
パーカーなんて現代文化の服装は誰一人いないから、みんな不気味がって近寄って来なかったんだ。
声をかけてくれた男性は、大きな剣を背負って逞しい『イケおじ』だった。
背後には三人の連れもいる。
冒険者パーティなのだろうと察することができた。
僕は乞うようにイケおじに懇願する。
「すみません! 気づいたら知らない世界に迷い込んできてしまって、帰る事もできないんです……」
『すみません』から切り出す感じが、いかにも僕は日本人らしい。
「そりゃ大変だ……」
イケおじは僕の窮地を理解してくれた。
「坊主の故郷はどこにあるんだ?」
いい兆候だ!
「日本です!!!」
その瞬間、空気が変わった。
それまで好意的だったイケおじも目が泳ぎ始める。
自分の仲間たちとも目を合わせて、何やら怪訝そうな雰囲気。
「……悪ぃ、坊主。俺たちじゃ協力できねぇ」
「どうしてですか!!?」
「すまん! 別の奴に当たってくれ!」
イケおじは両手を合わせて謝ると「武運を祈る!」と言って、そそくさと仲間たちと去って行ってしまう。
「そ、そんなぁああああ!!!」
何が悪かったんだ。
日本って言ったら急に顔色を変えてしまったぞ。
日本って僕の世界じゃ、外国人の行ってみたい国ランキング一位に選ばれる人気国。
異世界ともなれば違うのかなぁ。
その後もヒッチハイクの時間は続いた。
街頭でティッシュ配りでさえ、人に声を掛けれずノルマを達成できなんだ。
ヒッチハイクなんてハードルの高い行為ができるわけがない。
「はぁ……」
おどおどしながら声をかける姿は、さらに人を遠ざける。
僕は愕然と天を眺めた時だ。
「!」
青い空をバックに空を駆け抜ける、一人の少女の姿が飛び込んできた。
少女はダークカラーのローブを羽織ってるのが見えた。
長~い杖を乗りこなして滑空する光景は、まさに童話でよく見る魔女であった。
「魔女だ。……幻想世界だなぁ。ホントに空飛ぶんだなぁ」
呆然と眺めてると、その魔女はどんどん僕へと違づいて来てる気がした。
「え?」
さらにぐんぐん接近して来る!
「なに!!!?」
長い杖に乗った魔女はもうスピードで住宅街に降下すると、僕の目の前で華麗に舞い降りた。
「おっとっと……」
危なっかしく着地した少女は片足で地面を、けんけんと踏んでようやく停止した。
同じくらいの歳の少女は栗色のボブカットの頭に、やや大きめの洒落た黒ぶち眼鏡を乗せてた。
三角帽子は首にかけて、服装はダークカラーなローブにスカート。
胸には可愛いリボンをあしらったシンプルな魔女スタイルだった。
「君、日本人なんだって?」
「へ? あ、そうです!」
「ふーん……」
素性を確かめて来ると、魔女は小悪魔な眼差しで僕をなめ回す。
「……日本人って自己主張の弱い『お人よし』って話しを聞いてたけど、どうやら噂通りのイメージだね」
そう言う君こそ漫画やアニメでよく見る、自己主張と気が強い魔女のイメージ通りなんだよ。
「私の名前はミリア。世界中を旅をしてる魔女です」
「へぇ、旅をしてるんだ。あ、僕はノリトです」
「君がこの町で日本に連れて行ってと無茶難題を持ち掛け、人々を困らせてる通り魔だね」
あ、僕ってそんなヤバい奴の噂になってたんだ。
通りで人々が僕を避けていくわけだ!
「日本はこの世界にはないの。私だっておとぎ話し程度にしか聞かされてないし」
この世界と君が、僕にとってのおとぎ話しなんだが。
「多くの冒険者も連れて行く術がない。過酷な旅に決まってるから」
なるほど。だからさっきのイケおじも腰が引けたのかぁ。
「って事は、僕はもう帰る事もできないんだね……」
僕は緊張の糸が切れて脱力してしまった。
この数日間、食事もままならない劣悪な環境下で、希望を持ってヒッチハイクに奮闘してた。
もうその意味がなくなる。
一気に失望しかけた時だった。
「私でもよければ日本へ帰るお手伝いしようか?」
「え? でも、帰る方法はないって今……」
漠然と僕が返すと、ミリアは得意気に続けた。
「私はいろんな国を訪れて旅をして、人々との交流を広げてるの。だから旅をしていれば日本に帰れるルートを知ってる人に、巡り合えるかもしれないよ!」
ぱあっと、僕の視界が明るく照らされ始めた。
希望の光が僕の目に再び宿ったのだ。
「少なくてもこの町にいたんじゃ、いつまで経っても帰れないと思う。私の『杖』は長いし、君一人分乗せても飛べるから」
「本当に……!!?」
「期待し過ぎないでね。確実に帰れるって言ってるんじゃないんだから。……どうする?」
僕のことは気にせずサヨナラ! と後腐れもなく断りを入れて珍事や悲劇なんてどこの風が吹くまま。
風来坊の如く立ち去ろうと考えたが、そんなキザに決められるほど現状余裕がない。そよ風が吹いただけで吹き飛んでしまう精神状態だ。
「もちろん! よろしくお願いします!!!」
「いいよ。じゃあ、後ろに乗って」
誘われるがまま僕はミリアの杖に跨った。
自転車のサドルがないくらいの細身だ。
乗ってる内に折れたり、落ちないかと心配になる。
「出発するよ!」
ミリアが号令をかけると、足元に旋風が巻き起こる。
ミリアから放たれる魔力で、その辺の塵なども吹き飛ばして上昇の準備にかかる。
「一つ、私の旅は中々過酷だけどいい?」
「もちろん! 僕一人で見知らぬ世界を生きる方が過酷だと思うし……」
「……そうね。君みたいなお人よし、盗賊の類が喜びそうな貧弱さだよ」
否定するどころか盛大に肯定して皮肉ってくれる。
「飛ぶよ! 舌噛まないでね!!!」
「あっ、そうだ! 僕も一つだけいい?」
僕はミリアの腰に腕を回して訊ねた。
「なに?」
「僕、実は……」
「うん?」
ミリアにしがみ付く僕の腕に、ぎゅっと力が込められる。そして――
「高所恐怖症なんだ」
「遅い!!!!」
ミリアが地面を蹴り上げる刹那、ぐいん! と、僕たちは上昇した。
僕が絶叫してる間に、はるか天空まで飛び上がっていた。
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