第3話
こういう小説やドラマによく起こる状況が、自分に起こっていた。そのことに少し驚きながら、寒い中、半袖のまま私は耐えていた。なんとなく頭がぼーっとしてくる。眠いなぁ。そう唐突に思った。なんだか幼い頃に死んだはずの兄、晴来が見えてきた。これって凍え死ぬってことかなぁ。もうどうでもいいや。そもそも晴季に興味を持ったのは晴兄ちゃんと名前が似てたからだし。凍え死んで晴兄ちゃんに会えるなら別にいいや。
「……別にいいか。海莉ぐらいしか泣いてくれないだろうし。もういいや」
そう呟き、襲ってきた眠気に従って、寝ようと思った。その瞬間。
「良いわけねぇだろばか!海莉だけじゃなくて他の奴らも泣くに決まってる!大体こんな寒い日に半袖で屋上にいるとかばっかじゃねぇの⁉︎本当に死んだら取り返しがつかなくなんだぞ⁉︎このばかが!俺だってめっちゃ泣く!勝手に死ぬな!昔のいじめ時代と今はもう違うんだぞ!お前自体も変わってるしみんなもそういう人じゃねぇっての!ちゃんと向き合えこのばか!」
突然視界に晴季の靴が入ってきて、怒鳴られた。ぼんやりした頭を上げる。波郷晴季その人が目の前にすごい顔で立ってた。怒っていて、それでいて心配して、焦っているような顔。晴季もこんな顔をするんだ。今始めて見た。晴季は2年の間に可愛かった顔が引き締まって天然記念物級といっても過言ではないくらいのイケメンになっていたため、こんな顔をするとまるで王子様だ。しかも背もすごく伸びている。悔しいなぁ。前まで私よりちっちゃくて可愛かったのに。私は背も全然伸びなくて、顔は前よりブスになった。負けているようで悔しいなぁ。でも、眠気がどんどん迫ってきて、考えることもしんどくなってきた。
「眠い……」
私がそう呟くと、晴季が焦ったように慌てて声をあげた。
「おい!寝るな、絶対寝るなよ!死んだ兄ちゃんに会いたいのはわかるけど絶対寝るなよ!今は寝ちゃだめだぞ!絶対だからな!」
そして、自分の上着を私にかけてくれた。晴季のジャージは大きくて、ほとんどすっぽり埋まってしまった。そして、その上から晴季が抱きしめてくれる。その暖かさに安心して、大っ嫌いな人の腕の中にも関わらず、晴季にしがみついた。そして、しばらくして体温が戻ってくる。晴季は私の体温が戻ってきたことを確認して、私を持ち上げた。世間で言うお姫様抱っこ。そのまま私は運ばれ、その間に私は眠ってしまったらしい。死んだ晴兄ちゃんと遊ぶ夢を見た。
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