第2話 幼なじみで親友の朝陽(颯馬視点)
幼なじみの清宮朝陽は愛嬌と
いつも元気で明るく、名前のとおりの性格だからクラスでも人気がある。というよりも彼女自身が遊び盛りの子犬のように相手の懐に入ってすぐに仲良くなるといった方がいいかもしれない。
『今月、空いてる日ある?』
こんなメッセージが朝陽から届いたのはベッドに転がりながら漫画を読んでいた夕方のことだった。
今月空いてる日って、今日が二十九日だからあと二日しかないじゃないか。
一体なんだろう。
特に予定もないから空いているといえば空いているのだが。
そう考えているとスマホのメッセージアプリの画面が一転して、通話アプリの画面になった。
すっきりとしたショートボブの髪に笑顔でダブルピースをしている朝陽の画像が表示される。
何度も見ている画像だが不意にそれが表示されたからか、それとも、普段はない朝陽からのビデオ通話がかかってきたから、一瞬、胸がドキリとする。
さすがに寝たままビデオ通話というわけにもいかないので起き上がって通話ボタンを押した。
「もしもし」
『あっ、颯馬、メッセージ見たでs……うぉっ、ビデオ通話になってる!?』
どうやら音声通話とビデオ通話を間違えたらしい。
前にもそんなことがあったな。
慌ててスマホを持ち替えているようでこちらの画面に映される映像が激しく揺れる。
「ん? 音声の方がよかったなら一度切るけど」
『ううん、大丈夫、大丈夫。このままで』
そう言いながら、朝陽は画面に映る自分の姿を見ながら髪を直している。
俺としては髪を直す前と後の差がわからない。
それよりも朝陽の丈の短い緩めの部屋着から見える白い脚の方がよっぽど気になってしょうがない。
『えっと、それで……、予定のことなんだけど、大丈夫?』
「まあ、大丈夫。どうかした」
『そ、そのせっかくの春休みだから映画でも行かないと思ってね。映画のチケット颯馬の分もあるからお財布の心配は無用』
朝陽からの映画の誘いは全くの予想外のものだった。
お互いの家で配信されている映画を見ることはよくあるけど、二人で映画館に行くなんてことは今までなかったと思う。
……ん? ちょっと待て。朝陽は俺を映画に誘ってくれたけど、何も二人きりだなんて一言も言ってないぞ。
危ない、危ない。勝手に二人きりで映画に行く妄想をしてしまったけど、きっとそんなことはなくて、こないだまで同じクラスだった友人とかも一緒だろう。
恐らく、チケットが余っているから俺にも声を掛けてみたというところか。
浮ついた気持ちを一度落ち着かせてから口を開く。
「全然いいけど。俺以外は誰が行くんだ」
『へっ? 行くのは私と颯馬だけだよ』
「二人だけ……」
『そ、そうだけど。もしかして、わたしと二人きりは不満? まあ、不満なら別の子誘うからいいですけどー』
口を尖らせてブーブーと不満の表情をする朝陽。
「い、いや、朝陽さん、全然不満なんかないです」
『オッケー、それじゃあ、明日ね。席はわたしの方で予約しておくから時間決まったらまた連絡する』
いつもの笑顔に戻った朝陽はバイバイと手を振ってから通話終了のボタンを押した。
俺はスマホを枕の方に投げ、額をぺちぺちと叩いた。
朝陽と二人きりで映画……。
いや、きっと、深い意味なんてない。
他の友人にも声をかけたけど、急な誘いで暇な人間が他にいなかったのだろう。
変に意識しちゃダメだ。
朝陽はきっとこれがデート的なものだなんて一ミリも思っていない。
朝陽はあくまで幼なじみで親友だ。
昔は仲のいい幼なじみも成長すれば昔のままでいるのは難しい。
でも、俺はそんな時期にこれからも親友でいようと約束した。
だから、俺の方からこの関係を壊すようなことはできない。
困ることがあるとすれば、朝陽は親友だけど、幼なじみの目から見てもすごく魅力的な女の子だということだ。
そんな子が近い距離で日々接してくれば、親友でいようとする俺の気持ちも揺らぎそうになることがある。
そうならないためにも必死に落ち着きがあって、感情の波をあまり立たせないような振る舞いをするように心掛けている。
もちろん、それだって万能ではなくて、慌ててしまうことはあるけれど。
もし、俺と朝陽の関係が変わる時が来るとすれば、俺からじゃなくて朝陽から親友じゃなくて恋人になろうと言ってもらえるような時だろうか。
とにかく、明日が二人きりでの映画となればますます気を引き締めなければいけない。
― ― ― ― ― ―
今回は颯馬視点からでした。次は再び朝陽視点です。
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