本日を以て幼なじみを卒業させてもらいます!~負けヒロインになるのは嫌なんです~
浮葉まゆ@カクヨムコン特別賞受賞
第1話 男女の友情は成立する?
年々開花が早くなっている気がする桜の花は入学式を待たずして、春休み前半である三月から咲き始めている。
この調子だと四月の入学式の頃は桜吹雪が舞っているかも。
いや、この調子だと下手をすれば柔らかな葉が芽吹き始めている頃かもしれない。
でも、入学式の写真の背景は桜の花の方がいいに決まってる。
葉桜ではあまり雰囲気が出ない。
もっとも、高校の入学式を一年前に終わらせているわたしには関係のないことだけどね。
高校二年生になる前の春休みは、まだ、受験を意識するには早いから、そういう意味ではお気楽な休み。
だからこそ、なんの気兼ねもなく彼を映画に誘い、見終わった後の感想戦をカフェでまったりとできる。
「やっぱり、オープニングのアクション凄すぎでしょ。
「ああ、予告編でも流れていたけど、本編の迫力は段違いだった」
わたしこと、
一方、向かいに座る同い年の幼なじみである
「そうそう、まさかいきなり冒頭からあのシーンとは思わないじゃない?」
「俺はあのシーンはクライマックスかなと思ってた」
「だよねー。油断してたところをいきなり殴られた感じで驚いたし、これを最初にやるのって思った」
「たしかに、あれが冒頭だとこの後にこれを超えるどんな展開になるのかって、期待値は大きくなるよな」
お互いに遠慮がなくそれでいて心地いい会話。
年頃の男女が映画デートをしている時のような初々しさはなく、同性の友人と放課後の教室でだべっている感じに近い。
「――お待たせしました。フルーツパフェです」
店員さんが運んできたパフェグラスにはいちご、バナナ、オレンジ、キウイを始め色とりどりのフルーツが盛られ、グラスの底の方にはフルーツゼリーとナタデココが敷かれている。
このカフェの看板メニューであるフルーツパフェはわたしの好物で、そのことを知っていて映画の後にこの店に行こうと言ってくれた颯馬は流石わたしの幼なじみ。
「待ってました!」
いただきますと手を合わせ、パフェ用の長いスプーンでクリームを付けたいちごをすくって頬張る。
美味しい!!
フレッシュないちごの甘味と酸味、クリームはそれを引き出すために甘さは控えめだが、クリームがあることでコクが出ていちごの美味しさが引き立つ。
「好きだよなそれ」
さっきまでクールな表情でいた颯馬がにっと笑った。
「やっぱり、ここのフルーツパフェは最高だよ」
「よかった。今日の映画は朝陽の奢りだったからな。これぐらいサービスしないと」
颯馬は私の奢りなんて言っているが、別にわたしの財布から映画のお金を支払ったわけじゃない。
「別に私の奢りじゃないから。お父さんが会社から貰った券だから」
「えっ!? そうなのか」
「うん、だから、お礼ならお父さんに言って」
「了解、あとでLINEしとく」
わたしと颯馬の家は隣同士で、自分の部屋の窓を開ければ数メートル先に颯馬の部屋の窓がある。糸電話なんてなくても窓を開ければそれで会話が普通にできてしまう。
そんなお隣さん同士で幼なじみともなれば、家族ぐるみの付き合いもある。
颯馬の家は両親ともに仕事が忙しいことが多いからうちで夕食を食べるなんてこともしばしば。
だから、颯馬はうちの両親の連絡先も知っていて、お母さんと夕食食べにおいで、なんてメッセージのやり取りが普通にあったりする。
「じゃあ、サービスなんて言ってないで、颯馬も食べて、はい、あーーん」
「へっ!?」
わたしは素早く、そして自然な流れで颯馬の好物のキウイをスプーンに乗せると、反射的に半開きになっている彼の口へキウイを運ぶ。
「ふふーーん、どうかな、女の子にあーんで食べさせてもらうキウイの味は?」
もごもごと不自然に口を動かしてキウイを味わう颯馬。
「ちょ、朝陽、急に何やってんだ」
「何って、颯馬、キウイ好きでしょ」
「好きとか嫌いとかじゃなくて……、そ、そのスプーン」
学校ではいつも落ち着いて達観したようなキャラでいる颯馬が顔を赤くして慌てている。
「ん? スプーン? あー、もしかして、今さら間接キスとか気にしちゃう?」
「気にしちゃうって、普通するだろ」
「ジュースの回し飲みだってやっていたじゃん」
「そ、それはずっと昔の話で……」
言葉が途中からフェードアウトしていき、颯馬の視線はさっき自分が使ったスプーンではなく、わたしが持っているもう一つのスプーンへ移る。
「あれ? 気づいちゃいました」
そう、颯馬が使ったスプーンはその前にわたしがいちごを食べた時に使ったものじゃない。二人で一つのフルーツパフェを注文したから店員さんが気を利かせて二本のスプーンを持ってきてくれていた。
「マジで驚かすなよ」
颯馬は長く息を吐きながら萎んでいく風船のように椅子の背もたれに体を預ける。
「驚かすも何も颯馬が勘違いしただけじゃん」
間接キスなんて紛らわしいワードを出したことは棚に上げておこう。
わたしは持っているスプーンを指先でくるりと回し、今度はマンゴーを食べる。
「ああ、マンゴーも美味しい」
マンゴーのとろける美味しさを噛みしめていると、颯馬が目を見開いてこちらを見ている。
「どしたの?」
「だって、今、朝陽がつかった方のスプーン……」
…………。
「ふえぇぇぇ」
思わず普段出さないような声が出た。
やってしまった!!
だって、だって、今、マンゴーを食べたスプーンはさっき颯馬にキウイを食べさせたスプーンなんだから。
だけど、さっき自分が颯馬にしたことを考えるとここでこれ以上の動揺するわけにはいかない。
わたし達はジュースの回し飲みだってしてた幼なじみ(小学生の頃)。一緒にお風呂に入ったことだって(保育園の頃)、一つの布団で一緒に寝たことだってある(保育園の頃)。
当然、わたしと颯馬の間には男女の友情が成立している……。
している……。
いる……。
成立しているわけあるかぁぁぁぁぁぁ!!
やっぱり、無理無理無理。
そりゃ、昔はわたし達、親友だよねって言っていたし、そう思っていたけどさ。
一度、颯馬を異性として意識してしまってからはどうにも昔と同じようにはいかない。
それならさっさと告白でもしていちゃいちゃカップルになって爆ぜろと思うかもしれないがそれができたなら苦労はない。
十五年以上の付き合いのあるわたし達はすでに幼なじみという関係が強固な石垣のようにできている。
その関係を超えて彼氏彼女という関係になるには並大抵のことではない。
まず、颯馬の感覚が長年の幼なじみ生活のなかで完全にどうかしている。
例えば、年頃の女の子から映画に誘われたらどうだろう。
デートという言葉は広辞苑によれば「日付。時日。日時や場所を定めて異性と会うこと」となっている。
ならば、今日の映画やこうしてカフェで語り合っていることだって立派なデートだろう。
なのに、あいつはいつもと変わらず飄々とした様子でずっといる。
誘ったこっちはかなり勇気を振り絞ったのに。
颯馬にはよく考えて欲しい。
颯馬じゃなくて女の子と友達と一緒に映画に行ったっていいわけで、そこを女の子の友達じゃなくて颯馬を誘ったってことは、もはや告白しているのと同じだよ。
あまりにいつもと同じような颯馬の姿を崩してやろうと思って間接キス作戦を思いついたわけだけど、あそこまで驚いたリアクションや間接キスをしていないことに気付いて安心した姿を見せられると、逆にこっちが傷つく。
わかってもらえたかな。
つまり、颯馬はわたしのことをあくまで幼なじみで親友としか思っていない。
この関係のまま、わたしが颯馬に告白したたらどうなるかは一目瞭然。
彼はきっと、朝陽のことそういうふうに見れないとか、親友と思っていたから付き合うのはちょっとなんて返事をするに決まっている。
そうなってしまっては、今のこの幼なじみとしての彼の近くにいることもできなくなってしまう。
だから、わたしの取る方法は一つ。
こっちから颯馬へアプローチを続けて、彼にもわたしことを異性として意識してもらって颯馬から告白してもらう。
これしかない!
― ― ― ― ― ― ―
始まりました。新しいお試し短編版です。
女の子視点を中心にしたちょっと珍しいラブコメです。
皆様のからたくさんの
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