第2話 クロエ3歳
冬の長い北の辺境伯領にも花が咲き、ようやく春がやってきた。
辺境伯長男のダンと次男のロイ、そしてクロエは、こっそりと辺境伯城を抜け出し、魔の森へバッファローバウ狩りにやってきた。
「ダン兄しゃま!ロイ兄しゃま!クロエ、いきま~しゅっ!」
「「おぉ~!押しつぶせー!」」
「はいっ!ダークプレッシャー!!!」
「よし!次は、ロイ!氷の矢で目を狙え!」
「ガッテンショウチ!」
「よっしゃー!とどめは俺だぁ~!」
ダンが魔物のバッファーバウに雷撃を落とし、魔物狩りは終了。
「今日の夕食はバッファーバウのステーキでしゅね!楽しみでしゅっ!」
「よし、血抜きをして料理長に持っていくぞー!」
ブラウン辺境伯の長男次男として生まれたダンとロイは、大きな魔力を持つ家系の血筋からか、魔力開眼の儀式を受けると、すぐにめきめきと魔法の腕を上げ、魔力コントロールもすぐに覚えていった。そして、兄弟2人のやんちゃ度にさらに磨きがかかってしまっていた。
裏口から調理室にこっそり入ろうとした3人だったが、そこには、鬼のような顔をした辺境伯夫人が待っていた。
「あなたたち!また護衛もなしで魔の森に入ったわね!クロエはまだ3歳なのよ!魔獣に襲われてケガでもしたら、お嫁にいけなくなっちゃうでしょ!ダンもロイも、きちんと魔力コントロールが出来るようになるまでは、護衛なしで森へ入るのは禁止です!」
「えぇー!俺もロイも魔力コントロールは完璧になってきたしぃー、俺はかなり雷魔法使えるようになってきたんだ!ロイも氷魔法は中級も使えるようになってきたし。クロエなんか3歳なのに、ダークプレス使えるんだ。もう俺たちだけで魔の森の入り口ぐらいなら余裕だよ~」と、ダンは腰に手を当て、自慢げに言った。
「俺はダン兄に無理やりつれていかれたんだけどな。魔道具分解していじってるほうが魔獣狩りするより好きなんだけど」
「おまえ、その年齢から引きこもりのオタクはどうかと思うぜ~」
「クロエは、楽しかったでしゅ!だけどこれからは護衛のダリルといっしょにいきましゅ。お母しゃま、心配かけてごめんなしゃい」
辺境伯夫人は、はぁ〜とため息を吐きながら言った。
「クロエはまだ魔力鑑定も儀式もうけてないのよ!魔力暴走したらあぶないでしょう!そうだわ!今日の罰として、午後は3人ともずっとマナーのお勉強よ!侍従長が講師をしてくれるわ」
「「「はぁい……」」」
食堂で辺境伯夫人と子供たちが昼食を食べていると、執事があわてて食堂に入ってきた。
「奥様、お食事中失礼いたします。魔獣討伐が完了し、旦那様が本日戻られると連絡がはいりました。夕食には間に合うとのことです」
大盛の「ごろごろミートボールパスタ」を食べていたダンは、口の周りをソースだらけにしながら足踏みして喜んだ。
「やったー!父上が帰ってくる~! 今日はバッファローバウのステーキ食べてもらわなきゃ!料理長に絶対ステーキにしてって言ってくる!」
「ダン!お行儀が悪いですよ! 私から料理長にお願いしておきますから、貴方たちはマナーのお勉強よ! ダン!お口の周りを拭きなさい!もう~、うちの子たちはどうしてこう落ち着きがないのかしら。侍従長に厳しく教え込んでもらわなくてはいけないわね!」
「えぇ~侍従長、スパルタだもんな~。それ以上に厳しくって、どんななんだ~」
「侍従長、一見すんげー優しそうなおじさんなのに、授業始まった途端にマナー講師の鬼になるからなぁ。」
「クロエは、お母しゃまのようなステキなレディになるためにがんばりましゅ!スパルタどんとこいでしゅ!」
「クロエ、偉いわ~。ダンもロイも、クロエをかっこ良くエスコートできるように頑張るのよ~」
「はっ!俺たち、夜会でクロエのエスコートするんだったな!なさけない兄ちゃんになるとこだったわぁ。クロエ、かっこいい兄さまになれるように頑張るからな!」
「そうでしたね!僕もクロエに尊敬されるような兄にならなくては!」
クロエは、口の周りをミートソースだらけにしながら、兄2人に天使の笑顔を向けた。
「兄しゃまたちは、もうすでにクロエの大好きなかっこいい兄しゃまです!」
((クロエ~!俺たちの妹、可愛いすぎる!))
馬の鳴き声が聞こえると、マナーの講義を終えた3人は、すぐに玄関に向かって走っていった。玄関ホールには、すでに執事やメイド達が辺境伯を迎えるために並んでいた。
「ただいま!今帰った!皆変わりはないか!」
「「「「「旦那様おかえりなさいませ!」」」」」
辺境伯城で働く者たちは、最強にして尊敬する主人を笑顔で出迎えた。
「「父上おかえりなさい!」」
「お父しゃま!おかえりなしゃい!」
「ダンもロイもクロエも、元気だったか?」
辺境伯のジョンは、子供たち3人を両腕で抱えながら、辺境伯夫人の頬にキスをした。
「ジョン、おかえりなさい。ケガはない?」
「あぁ、大きなケガもなく、負傷者もでなかった。今回の討伐は順調だった」
「無事でよかったわ。でも顔が傷だらけね。早く手当しないと」
クロエは辺境伯の顔を見上げると、「お父しゃま、お顔痛いでしゅか?」と言って、辺境伯の顔をぺたぺた触りながらクロエお得意のおまじないを唱えた。
「いたいのいたいの飛んでけ~!」
((あっ、クロエ!それ、父上と母上には内緒の魔法......!!))
辺境伯の顔をぺたぺたと触っていたクロエの手が金色の光で包まれた瞬間、辺境伯の顔の傷がみるみる治っていった。
((あー!やっちゃった~!!これ、俺たち絶対怒られる……))
辺境伯は一瞬、驚いたように眼をみはったが、すぐにいつもの優しい父の顔に戻って、息子2人を「どういうことだ?」と問うように目を細めて視線を向けた。
「ダン、ロイ、後で話がある」
「「はい......」」
家族5人が夕食の席に着くと、執事がサッと辺境伯の前にバッファローバウのステーキ皿を並べた。
「おお!今日はバッファローバウのステーキか!ダリルが仕留めてきたのか?」
「違うよ~!俺たちで仕留めてきたんだ!母上には叱られたけど……」叱られたことを思い出したダンの声がだんだん小さくなった。
「どうやって仕留めたんだ?」辺境伯が興味深く訊ねると、ダンは自慢げな顔でフォークを振り回しながら説明を始めた。
「まずは、クロエがダークプレスでバッファーバウの動きを止めて、その後にロイが氷矢で目を潰して、最後に俺の雷撃で仕留めたんだ」
「ほう、良い連携だな。クロエはいつから魔法が使えるようになったんだ?」
「3歳になって、俺たちと外で遊べるようになった時に気が付いたんだ」ダンはロイに「そうだよな」と同意を求めるようにロイを見た。
「ダン兄と俺とクロエでかくれんぼしてた時、物置でかくれてたら、でかい黒い虫が出てきて、ダン兄が俺に潰せーって叫んだら、クロエが『ちゅぶれろー!』って黒い虫に向かって言ったんだ。そしたら、ぺちゃって潰れた!」
「それから、俺とロイでクロエに少しづつ魔法を教えていったんだ!」
「あの光魔法もか?」辺境伯は少し顔を顰めながら訊いた。
「あれは偶然で、ロイが転んでひざを擦りむいた時にクロエが『痛いの痛いの飛んでけ~』っていったら、クロエの手が光って傷があっという間に治ったんだ」
「ふむ、そうか……。これからは魔法の練習は必ずダリルか魔術師団のメンバーと一緒にするようにしなさい。魔法が暴走した時に止めれるものがいなければ命を失うぞ」
「「はい。魔法の練習には必ずダリルに付き添ってもらいます」」
ダンとロイは、しゅんとしながらも、しっかりとバッファローバウのステーキをおかわりしていた。
「少し早いが、教会で鑑定してもらうか......」辺境伯は少し思案ながらボソッとつぶやいた。
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