おせち?

「ほら、やるよ」

「……」

「どうした?」

「あの……。すみませんが、コレは……」

「この間のを真似して作ったんだ」

「もしかして、お節料理……です、か……?」

「他に何がある」

「いえ……」

そっと、目を伏せる。

相手が意気揚々と持って来たモノ、それは……

……語るには、あまりにも微妙な物であり。そして口にせずともその味(の悪さ)は、容易に想像が付いた。

「あの、お節という物は……わざわざお土産として持って来て頂くものでは無いので……」

「なんだよ、お前も嫌だって言うのか?」

「……お前『も』?」

思わず首を傾げる。

すると、苦々しい顔をして返事をされた。

「……今までに、もう8人から『いらねー』って言われた。作る前から断る奴までいたんだぜ?」

「あぁ、それは」

賢明な判断、という言葉を飲み込む。

「俺だって……一生懸命やってんのに……」

馬鹿、という呟きがこぼれるのを、やはり憐れには思う。

年明け早々、そんな寂しい思いはさせたく無い。胸の痛む思いに負け、彼女は微笑んだ。

「すみません。今から、一緒にいただきましょう?」

「え……っ」

「夕飯の支度、まだだったので……」

二人で食べるには量が多いが、そんな事はこの際関係なかった。

『頑張って作った物を誰かと食べる事』。そこが重要なのだ。


ただし――


その破壊的な味に、たまたまやって来たお隣さんをも弱らせたのは、別のお話。

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