喫茶店にて

深い深い溜め息の後、ハッとした様に

「このコーヒー……」

カップの表面を見詰めながら、君が呟いた。

「折角綺麗な絵が描いてあるのに、勿体ないよね。溜め息一つで変わる世界だなんて……」

なるべく視線の先へ息が掛からない様にと、体勢を変えて話す君。

それでもミルクで出来た泡は、カップを持ち上げるだけでも儚く揺らぎ……

世界の中心に居る『君がリクエストした絵』は、まるで勝手に動くマリオネットの様に、ふらふらしている。


「……じゃあさ、君が命を吹き込めば良いんじゃない?」

僕は砂糖壷から一匙掬って、ぱらぱらと彼女のコーヒーへと振り掛けた。

「ホラ、これだって見方によれば……まるで世界に雪が降った様にも思えるだろ?」

「――小さじ一杯の星屑……」

僕の言葉で、何かインスピレーションが湧いたらしい。

彼女の中では僕の提示した『雪』が、既に『星』へと変貌を遂げている。


そう、君は物語の作者なんだから。

『ストーリー』という籠の中へ何を入れても、どう混ぜても……全ては自由なんだよ?

籠の中の審判者――それが『作者』というモノ。

全ての采配は、君に委ねられているんだ。


「じゃあ、こっちの泡は挑戦者……そうね、こっちの子に向かう命知らずのテディベアって所だわ!」

スプーンを使って何やら新しく模様を増やしながら、君は話す。

相変わらずバトル物を書くのが好きだなぁ……なんて思いながら、僕はボンヤリと聞いていた。

「ふふ、なんかこうすると口から破壊光線でも出してるみたいね」

「おいおい、その泡はテディベアなんだろ?」

「全てのテディベアが平和的だなんて誰が決めたの?」

言いながらタバスコに目を留めた君は、尚も続ける。

「常に色んな物を狙っていてね、彼の赤い吐息は破壊の余韻なのよ……!」

哀れベア……。遂に犯罪者クラスだな。

「ね、このお話書けたら感想書いてよ?」

「はいはい」

「今度は3行じゃ済まさないからね、ルーズリーフ3枚は書く事!」

「えぇっ!?」


『君がまたお話を書く様になったら、僕が感想を書いてあげます』


何気なく言った誓いの言葉を盾として、どんどんと無茶を要求する君……。

感想なんか、書くのは苦手なんだけど――


(でも、こうしてストーリーを考えている時の生き生きとした表情が、僕は好きなんだよなぁ……)


何もかも、惚れた方が負け。

そういう審判を下された気がした僕は『変わらない思い』のある現実世界で、こっそり小さく溜め息をついた。



 <終>

――――――――――

 <後書き>


このお話は

・ため息一つでかわる世界

・何気なく言った誓いの言葉

・赤い吐息は破壊の余韻

・小さじ一杯の星屑

・命知らずのテディベア

・勝手に動くマリオネット

・籠の中の審判者(ジャッチメント)

というキーワードを使って『何か詩、物語的なものを』……というお題に基づいて書かれています。


キーワードについては一つでも使えば良いという感じもしましたが、いっその事全部使って話を書けないかと考え……

そして出来たのが、この作品です。


因みに『溜め息』で変わる世界と変わらない世界の対比をしようとも試みていたり……。

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