第8話-三日月の日。

6:45

カーテンが役割を放棄した、と勘違うほどの眩い朝日で目が覚める。

「んん……、ふあぁぁぁ…」

「おはよミカ!今日すっごい良いお天気だよ~!」

朝だけど活動的な幽体がふわふわ動き回る。


「ミカー!行ってきます!」

お母さんの声がオレの部屋まで届く。

「いってらっしゃあい…。」

朝早くから夜遅くまでが、平日の母さんの勤務時間だった。

やれやれ。どれだけお父さんとお母さんが長時間働いても

足りないなんて、税金が憎い。

「ミカ、今日も授業あるんでしょ。宿題大丈夫?」

二人の収入の行く先(一部)は

オレのオンライン授業代なのだから、オレが家族をサポートしなくては。


7:30

ルナが横で鼻歌を歌うなか、顔を洗って着替えを済ませると、

朝ごはんタイムだ。

”いつものメニュー”もルナにとっては豪華で手の込んだものらしい。

…だからと言ってその羨ましそうな目はやめろ。食べづらい。


『九月の三連休ラッシュを終えて、今日からまた一週間が始まりました!

地域の小学生たちはどのような休日を過ごしたのか、

仁泡ひとあわ小学校の生徒の様子を聞いてみましょう!』

ニュースではオレたちの母校が映し出された。

「そか、普通の学生は今日からまた学校か」

「そうだな。不登校生とは無縁の話だ…」


オレは、ルナを失った夏休みから学校に行けていない。


…今はもう、ルナがそばに憑いてるから登校した方がいいのかな?

そんなわけで、お母さんとお父さんの気遣いから

リモートで勉強してる。

正直、家に居る方がはかどる。


8:50

『はぁい月食さん、月津つきつさん、

おはようございまぁす!』

なるべく明るくしようとしてくれる先生の挨拶で、授業が始まる。

「おはよーござい…ちょっとエムちゃん!

朝だからってテンション高いって!!」

画面端でわちゃわちゃしている、月津杞憂きゆうくん。

何やら事情を抱える杞憂くんの朝は、もう慣れた。

ここから昼まで、一時間ごとの休憩を挟みながらも勉強を教えてくれる。


こんな気遣いをしてくれたお母さんとお父さんには感謝しかない。

12:40

授業を終えて、結構な量の宿題をもらって。

「お昼、作るか。」

午後は自由だ。

「ルナ、教えてくれてありがとな。」

隣に浮いていた親友にそう伝えると、

驚いたように動きを止めて、

(こういうとこは素直なんだから…もうっ///)

ルナは照れて頭の後ろで手を組んだ。

「ミカってば、まじで地理弱いんだから。

もっと頼ってよね~!」

肩に寄りかかってきたので、そのままリビングへ行く。


「ねぇ、ミカってさ」

焼うどんを頬張りながら、ルナの話に耳を傾ける。

「なんだい?ルナくん。」

またどうせ突拍子もない話だろうから、大人の余裕で返してやるぜ。

「運動不足もいいところだよね」

っ!!!!おいこらオレの私生活のダメ出しはやめろ!!!!

思わず大人の余裕が吹き飛んだわ。


「うっせーよ!こないだも外出の少なさを

指摘してきたけど、オレの生活習慣そんなにダメ!!?」

「いや…まぁそこはミカの自由だけど、

筋肉は無い、お腹は柔らかい、ってどう思う?」


オレは自分のお腹をつまんでみた。あまり食事中にやることでは無いが、

肉の柔らかさには感嘆…

いや、落胆の観声が上がっただろう。


2:10

住み慣れた住宅街を、足の無い親友を引き連れて歩く。

「ね~え~~!煎餅買ってよ~!!!」

「だぁめ!第一オレが食う訳でもないのに

無駄遣いできるか!食材だけ買うんだもん!」

幼い頃もしたようなやりとりを、高校生二人で繰り広げた。

「醤油煎餅を食べてるミカを見るため!

ボクが見るから!ね!」「どんな用途だ!💢」


近所のスーパーまでは10分。アディショナルタイムも吃驚の近さだ。

「あ、そういやミカが掃除機かけてる

時のことだけどさ、」

さっきの話か。ルナは耳元に口を近づけて告げる。


「露出度の高いおんなの人が写ったパッケージの、

DVD見つけたんだけど…」


「―――っはぁ!!?

ッ、ちょ、バカおま、」

オレがあからさまに慌てると、悪い顔でにやけたルナが

「ミカもそういう趣味だったわけ?

なんだよぉ~言ってよ!

それで……何回使…?あっもちろんそういう意味でね?」


「~~~~~!!!!

ル、ルナのばかやろー!!!!」

ミカも高校生だもんね…(生暖かい目)


6:30

晩ご飯を食べ終えたところで、お母さんの「ただいま~」が聞こえた。

「お帰り~」

お疲れの様子のお母さんに軽くそう言うと、

「今日は普段より早く上がれてよかったわ。

そういえばこれ、届いてたわよ。」

渡してくれたのは、一通のはがき。


記された名前はお父さん。

部屋に持って行って、ルナが眺めるなか、読んだ。

「………。」

思わずクスッ、と笑いが漏れる。

単身赴任のお父さんは、お母さん宛とオレ宛に、

定期的に手紙を書いてくれる。

いまどきに電話やメールを使わないお父さんの、

そういった温かくてマメなところが好きだ。


それからお風呂に入って、ルナに

”愛娘を見る目”で見守られながら眠りにつく。


そんな一日は、三日月がとてもくっきり見えたそうな。

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お月さまのよりどころ-オレの幼馴染は、死んだんけど。 @rita2299

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