第7話-こんな日は二人で。

朝ごはんはトーストにスープ、目玉焼き、ウインナー、

そしてレタスだった。

何気ない朝のメニューに、ルナは目を輝かせていた。なんで?

遅くまで仕事で疲れているだろうから、お母さんは起こさないでおく。


しゃこしゃこしゃこしゃこ…

食後はしっかり歯を磨かなきゃな。

しゃこしゃこ…


「ミカはやっぱ、行動範囲が狭いよな」

しゃこっ!!

「な、なんだよ急に💦」

思わず歯ブラシをにぎる手があらぬ方向へ。

「だってさ?」


「スーパーとコンビニとCDショップしか行くところ無いって…

どんだけ家好きなの?」

「仕方ないだろ…

音楽くらいしか趣味が無いんだから。」

唐突に言ってくれるものだ。ルナはつづけて、

「まぁボクが言いたいのは、

休日くらいどこか遊びに行きたい、ってこと!」

人差し指を立て、軽快に飛び回るルナ。


「それでルナは、

どこに行きたいんだ?」「そこはノープラン~」

「ちょっとくらいは案だせ言いだしっぺ!」

まったく。孫の顔が見たいわ。きっと呆れ果てた顔してるぞ。


「あーでもちょっと駅前行かなきゃいけないけど、

カラオケとかどう?」

「…ルナが行きたいって言うなら、

連れていってやるよ。」

「ミカってば優しい大好き!!

一生憑いてく!」

肩に少し体重がかかるような感覚がしたのは、ルナが

ぎゅーってしてきたからだった。

「ん……

別にそんくらい構わねーよ。」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー


「うわー、ここ久々だなー!」

「カラオケなんてもう何年も行ってないね~。」

ドア前に113、と書かれたカラオケルームの中。

陽気で優しいルナの声が響く。

「ボクはマイク持てないし、ミカは自由に歌っていいよ」

「いやいや、さすがにオレだけ歌うって訳にも――」

ガチャ

「あのー、お客様…?」「あっ…ハイッ!?」

体格がよく、背の高い店員さんが入ってきた。

「ご注文お決まりですか?」

ルナは店員さんに続き、小声で独り言を言う。

(ここってドリンクバーとかじゃないんだ…

久々すぎて忘れてるわ)

別にそれ小声である必要は…。いや今は注文だ。

「あーとえーと、」


「じゃあジンジャーエールをひとつ…

……いえ、ふたつお願いします!」

「かしこまりました~」

店員さんは真顔だけど、『よほどジンジャーエール好きなんだ』とか思ってる。たぶん。そうしてバタン、とドアが閉まった。

「なんでふたつ頼んだの…?」

ルナはきょとん、とこちらを見てる。

「最後にカラオケ来たのも、ルナと二人でだったから。」

「???」

「今はもう、ルナがマイク握れなくても。

好物のジンジャーエールが飲めなくなっても。」


「前と全く変わってないな、

って思っただけだよ。」


口を線にして目を大きく開いたあと、ルナは

「…………ふふっ、

あははははは!!」

…思いきり笑いやがった。渾身のキメ台詞だったのに。

「………笑うなよ…」

「いやごめんって!wミカって意外と、

そういう雰囲気を気にするロマンチストだったなって

思い出しちゃってさ。」

「っ!!!!//」

その目やめろぉ!!余計恥ずかしくなるだろうが…!


「ルナのばか!!!!オレがせっかく

気ぃ使ってやったのに…!///」

「あっはは~♪涙目のミカも可愛い♡」

そこで再びガチャ、とドアが開いた。

やべ、一人で会話してる奴みたいになった、

「お待たせしました、ジンジャーエールです」

店員さんが淡々と口を開いたので胸をなでおろした。

「ごゆっくりどうぞ。」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー


「相思相愛!!?♪」「大歓迎~~!!!♪」

「御恩と奉公!!?♪」「大賛成~~!!!♪」

オレらは交互に高音のメロディを熱唱する。

その直後、ルナのパートがハイテンポで始まった!

「あ~~にんげん支え合い~♪」

たっけぇ!!!やばい!!

「誰でも~♪」「だれでも~♪」

「お互い~♪」「おたがい~♪」

ラスト!オレのパートッ!

「持ちつ持たれつッ!!!♪」「おーれい!!♪」

ルナの「おーれい!」でこの曲は幕を閉じる。


「はぁ、はぁ……………

歌いきったぜ…」

「ツキツクはよく歌えるよねぇ、

こんなキッツい曲…」

速い+高いって、体力いるんだなぁ。


「………ジンジャーエール二杯も飲んだからトイレ行きたい。」

「おっけ。勝手に一人で歌ってる――

いや、デンモク触れないんだった……」

ルナのそんな声に、思わず足を止めてしまった。

「そっ…か、そうだよな……」

デュエットしてても、ルナの声は拾ってくれない。

マイクは、ルナの手をすり抜ける。当然だ。

何とも言えない気持ちで、オレは113を後にした。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー


「飯づくりフィーバー♪サンキュー!」

元気の出るあの曲調が、113の部屋から聞こえてきた。

ルナの声だ。マイクは通ってないけどはっきり聞こえる…。

いやそれより!ルナひとりでどうやって…!?

ガチャ……

そっと、ドアを開く。

「――――は?」

そこには、間奏のリズムに乗るルナと…

タンバリンをノリノリで鳴らすさっきの店員さんが居た。

「あ!おかえりミカ!」

「おう……って違う!!

なんでこの人…!ていうかルナが見えて…!?」

「お客様。お邪魔してます。」

真顔でこちらに挨拶する店員さん。


「手持ち無沙汰だったからウロウロしてたら、

この人…冴城さえぎさんが曲流してくれてさ~!

いや~親切な大人も居るもんだなぁ!」

「こちらこそ、朗らかで優しい幽霊に出会えて嬉しいです。」

仲良く喋る二人を、ただ呆然と眺める。


「…霊感の強い人って、居るんだなぁ……。」

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