第6話-満月。

じゅ~~~~パチパチパチ…

キッチンに、油の揚がる良い音、

そして高音の鼻歌が広がる。


「ふん~ふんふふん~~♪」「感謝して感謝されよエブリデイ~♪」

オレの鼻歌に、ルナがサビを続ける。

頭の中に流れる間奏部分に、二人して聞き惚れてしまう。

ツキツクの曲は、間奏まで美しいなぁ…。

と、思いながらも唐揚げを揚げる手は止まらない。

「ふふふん~♪今日はチキン南蛮~~♪」

めったに作らないメニューに、思わず替え歌を歌った。


「そういえばミカってさ」

「うん」

「三食全部自分で作ってるんだよね。」「あっつ!!油はねた!」

オレの叫びは、ルナの声に重なった。

「大丈夫?やけどしてない?」

目に涙を浮かべつつ流水で指を冷やす。

「~~っ大丈夫…」

安心した、と言うように、びっくりして浮いた身体をソファに預けるルナ。

「…そうだな。お母さんはパートかけもち

お父さんは単身赴任って、家事は全部オレがやんなきゃだからな。」

「ひぇ~~…

大変だろうに。」


「偉いなぁ…」

「んーまぁ確かに、オレにだって勉強があるし

趣味の時間がなくなるのは嫌だったけど」

オレは顔をあげて、

「ルナが憑いてからは

大変って感じでもないな。」

と真剣な声色で言ってみせた。どや。

「へえ…」

あまり響かなかったか?キメ台詞。と思ったその瞬間、


「つまりミカはボクが居るから

つらくないってことかな!!?」「違っ………!」

ルナは突然現れた。

突然、後ろから抱き着かれると流石におどろく。


「いや違くはないけど

近いわ!!邪魔!」

「ふふ、ミカは可愛いな。」

ふざけてるのかと思って振り向くと、今日は特に幸せそうな、

愛娘を見る目があった。いやこれは初孫を見る目かもしれない。

そんな親友の表情を見ていると、

「まったく…///」

瞼を閉じ腕を組んでむすっとした顔をしても、

どうしても照れくさくなってしまう。ルナの未来の初孫。この幸せ者め。


「…しかし知らなかったな。」

「何年も一緒に居たはずのミカが、

家ではバリバリ家事をこなしてるなんて。」

「そうか?」

「そう!ボクの知らない一面を見れて、

ミカのこと『母さん』って呼びたくなったよー」

「誰がお母さんだっ!」

にやにやこっちを見てくるな息子よ。

「…はあ。ご飯できたわよー…」

たまにはルナのおふざけにノってやる。

「はぁい、お母さん!」

「…ったく。何やらせてんだ。」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「いただきます。」

「う~わ!おいしそ!」

こんだては、白米・わかめの味噌汁・ゆで卵・

ほうれん草のゆで和え・それにからあげだ。タルタルソースもあるぞ。

「羨ましいなーボクだって食べたいのにー」

「ただの家庭料理ひとつに

そんなに言うかぁ?」


「でも」


「こんなにちゃんと作ってたら時間かかるでしょ~~?

カップ麺でいいじゃん

カップ麵で~」

つまらなさそうにルナは、そう言った。

「いやいやそういう訳には」「少なくともボクの時は毎食ラーメンだったね」


何ふてくされてんだ、と思ったが、

違った。

「あれ?」


「ルナの家

ご飯つくってくれる大人いなかったっけ?」

「そうだよ」


「母親も父親も

二人揃ってパチンコ屋出かけちゃうから」

「ボクが掃除とゴミ出し

しなければ汚れっぱなしだし」

「ご飯はお金だけ置いて

いつも家に居なかったし」


「………!!?」


「まってそれ初耳だけど!?」

「かれこれ11年、一緒に居るのに、嘘だろ…?」

「う~んあんまりボクから

話そうとしなかったのかもね」

ルナは無表情だが、どこか不満がある声色だった。

その不満は母親と父親に対してなのかな。

「あ…でもそういや言ってたよな、『おこずかいもらえないから

お年玉しかお金ない』って。」


「うん」

ルナは…ちょっと、ちょっとだけ寂しそうに、続けた。


「両親の方もきっと

ボクのことはどうでも良かったんだろうね」

「だから、ボクが死んでも

泣いてくれなかった。」


食卓テーブルで隣に座る幽霊は、『あーあ!』と天井を仰いだ。


「お年玉の話も、

音楽プレーヤーは殆どミカに負担してもらっちゃったし」

「あのときはごめ――――」


ぎゅ。

。」

ルナを抱き寄せる。少なくとも、オレはそうしたつもり。

「そんなことは

どうでも良いから。」


「気にするんじゃねぇ。」

「………。」

なでなで、とルナの頭をさする。少なくとも、オレはそうしたつもり。

「ボクの未練のひとつなんだけど。

…気にしたくなくても、気にするんだよ。」

ルナは寂しそうに、目を伏せた。


「じゃあオレに憑いてる間は、忘れとけ。」

ぽん、ぽん、と優しく頭ポンした。少なくとも、オレはそうしたつもり。

「…ご飯、冷めちゃうよ。

はやくたべたら」

ルナはとってもとっても寂しそうに、そっぽを向いた。


「音楽プレーヤーでツキツクの曲聴くか?」

「…………聴く。」


冷めた味噌汁も、今日はなんだか美味しかった。

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