第5話-新月。

「えー今日は、」

高校の担任の先生。悲しい顔をしているが、落ち着いた口調はいつも通りだ。

「みなさんに悲しいお知らせがあります。」

教室がざわつく。オレの中のどこかもざわついた。

「先日、

皆既ルナさんが――――――」


オレはそこで初めて、ルナが学校に来ていない理由と、

昨晩連絡がつかなかった訳を知った。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「………はっ」

広い自室に、自身の息だけが響く。

深夜2時。月の無い空は、窓から部屋に影を落とした。

(夢…またこれか……)


高1の夏に親友が死んでからは


同じ夢を見る


「起きたくねえな……」

少し涙を浮かべて本心をつぶやく


学校は


親と周りに心配されて


行くのをやめてしまった


ルナの居ない学校は胸がしめつけられるけど

なんとか行っていた


よほど虚ろな顔をしていたのだろう


先生も友達も母も気をつかってくれていた


(…オレにとってルナはそれだけ

大事だったんだな)


居なくなってようやく


自覚した


ルナはもう、


居ないのに。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「ルナ!」


「ミカ~~!」


「今日も家まで

きょうそうな?」


「まけないよ~?」


「今日こそ絶対

音楽きくやつ貸してよ!」


「えー…

もっとツキツクの曲ききたい。やだ。」


「もう二日かりてるでしょ!

ボクのばんだよ!」


「オレにきょうそうで勝ったら、いいよ!」


「約束だよ?」


「うん!ぜったい!」


「やぶったら先生に言うもんね~だ!」


『兄弟みたい』

先生にもお母さんにも言われた。

その度にオレらは、ほんとうの兄弟になった気がして


なんだかくすぐったかった

(なのにオレは)


(ルナの、

最期の一言さえ

聴けなかった。)


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


夜中も開けっぱなしのカーテンから、白い日光が差す。

夜は月光が入ってこなかったのに、朝日となると眩しいものだ。

「お寝坊さん♪」

その優しい囁き声で目が覚めたのは、オレが幸せな証かもしれない。


「ん……おはよ」

頭上を見ると、あの愛娘でも見るような眼差しがあった。

「おはよミカ!

学校ちこくするよー!」

「あ…いや、学校には行ってなくて。」

深夜2時に起きて二度寝しても、問題がないことを伝える。


「……いや」


「ルナーーーーーーー!!?」

今世紀最大の叫び声(オレの中では)。

相手もオレもびっくりして、まるで幽霊みたいに浮き上がってしまった。

「なっなっなっ…」


「なんでルナが

オレの部屋にッ……!?」

「へへーん。驚いた?」

「そりゃ驚いて…

いや驚くも何も――!」

バーン!!!


叫び声より大きく、ドアを勢いよく開ける音が聞こえる。

「ミカ!!?」

入ってきたのはオレのお母さんだったようだ。

「凄い声だったけどどうしたの!?」「ヤベッ……」

オレは神速でルナを布団に押し込もうとした。

しかしすり抜けたので、ルナが

「ん!何すんだよミカ!」

と嫌がるだけだった。

「凄く大きな声で、『ルナ!?』って…」

「そ そうなんだよねぇ

夢の内容にびっくりしてさ…」

お母さんは驚いた顔から心配する表情に変わり、

「そう……

ルナくんのこと忘れられないのね…

夢にまで出てくるなんて…」

例え身体の問題じゃなく心の問題でも、

オレのこと心配して、学校を休ませてくれる良いお母さんだ。と思う。

「あらもうこんな時間!お母さんもう行くからね」

「あっうん!!!!

お仕事ガンバッテ!!!!💦」

バタン。

「…なんだよ~

隠そうとしなくてもよかったのに。」

「家にいきなりルナが居たら

不法侵入だろ。…ッじゃなくて!!!!」

まだまだ驚きは冷めず、ルナの方へ向き直る。

「なんで、し…」


「…しんだはずのルナが、

ここに……」

「ミカ想うと心配で死ぬに死ねなくてさ。

来ちゃった。」

なんだこれ。まだ夢の中…?

「夢じゃないよ。現実。」

顔に出ていたらしく、ルナは優しい声色で答えてくれた。

ふいにミカは、ベッドから離れた。

「……ッ!!!!」


「ルナ、足…!!!!」

あまりのショックに目を見開いた。

「そっか、ほんとに……」


「しんじゃったんだ…」

これが夢じゃないのならなおさら受け止めたくない死の現実を前に、

次第に泣きたくなってくる。


「ううん、ミカ!」


「ボクはまだ

天国に行くには早い年頃だよ。」


「ミカとの思い出も作り足りないからね!」

「ルナ………」


「だからね。

これからもっと、思い出つくろう!!」

「ルナ……っ!!」


ぎゅっ…!

「オレ、本当はこうしてルナのこと抱きしめたかった…っ!」

「わ!ミカ、ボクは実体ないから透けちゃうよ…?」


しばらく黙り込んで、オレはルナを抱きしめる姿勢を続ける。


透ける腕。優しい声。

幼いころに慰めてもらった、ルナの温かさは忘れるわけがない。

だから、

「そんなのいい……

うれしい…っ…」

先程とは違う意味の雫が、目から溢れそうになっていた。


そんなオレのことをやっぱり愛娘を見る眼差しで見つめて、


悲しいくらい透明な手のひらで頭を撫でた。


「ルナ…………

だいすき…。」

「ボクも。」


「これからは、死ぬまで一緒だよ。」




          ~おまけ~

「あのときのミカったら

素直なもので……」

寝る直前。自分の部屋。ルナの優しい声。


「…」


「ボクのこと夢で見たんだって?」


「…うるさい」


「それに『だいすき』だなんて…

困っちゃうな~~♡」

口ぶりはからかう調子だけど、本当に嬉しそうに笑うものだから、

オレは照れ隠しに言った。

「しゃべんな……//」

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