第4話-遠い昔のはずの。

「はぁーいみなさん!

手を合わせて―――」

「いただきます!」

その掛け声は、みんなを一斉に給食へ誘う。

それなら、オレは当時、どうしてたっけな――


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「いただきます。」

今日のきゅう食は、わかめごはん・さけフライ・こまつなのみそ汁・ぎゅうにゅうだ。

こういう…なんだろう、たべてると落ちつくこんだては、すきだ。

『ジャッジャッジャジャッジャージャジャ♪』

おひるのほうそうで、なにか曲が流れてる。

うえの学年のひとが流す曲は、いつもよくしらない。


『飯づくりフィーバー♪』

(でも…なんだろう、この曲…)

歌声が、なんか…

きれいだ。

まるで―――

「よるのおそとで

歌ってるみたい!!」


ふいに、声がした席をみつめる。

「どしたのルナ、きゅうに叫んで」

「あたまだいじょうぶかよ~~」

そんな声かけも気にせず、キラキラした目で曲をきいている。

そのすがたをみてると、思わず、


ガタッ


「わっ

わかる!!!!」

オレはイスをひいてたちあがった。

「この曲すっごいきれいだよな!!?」

「うん!!!!」


こんどはルナがオレの席の方をみて、答えた。

「ボクこれすきー!!」「オレも!」


ひるやすみ。ろうか。オレたち二人のでかい声。

「そっか、なまえ、ルナっていうんだな!!」

「そう!ミカもツキツクすき!!?」

「今日きいたばっかだけどな!!」

大きな声でそういって、大きくうなずいた。

「いっしょだ~~!!」

「いっしょだなー!!」

オレとルナはにっこり顔をみあわせた。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「ルナおはよ、

昨日のツキツクの新曲聴いた!?」

「聴いた聴いた~~!めっちゃよかった…!」

ルナの家の玄関前、近所迷惑を気にして朝から小声で語る。

中学の制服に身を包んだルナは、なかなか様になってるんじゃないか。

「今回の曲、春頃の新生活を歌ってるらしくてな、」

「中学校生活はじまりたてのボクらは気分があがりますな~!」

「そうなんだよ…!!」

声量に気をつけながら、古めなアパートの階段を降りる。

「来週のライブでも、ぜっっったいに聴きたい!」

「楽しみだなー、ライブ!」

わくわくしながらルナの顔をのぞきこむと、いつもと違って悲しそうな表情をしていた。

「あの…ごめんね、

お金全部負担してもらっちゃって…」

その表情の理由はこれだったみたいだ。オレは笑顔で、

「いいのいいの!」


「オレはルナと一緒に

ライブに行きたかったんだから!」

そう言ってみせると、ルナは安心した様子で返した。


「ありがとね、ミカ」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「はあ”~~…あ~!」

思い切りのびをしながら濁った声を出す。

「テスト期間おわったー!!」

やりきった後の家路は、少し浮かれた足取り。

「ミカお疲れ!」「ルナもな。」

隣を見ると、ルナも晴れやかな顔をしていた。

「高校のテストってなんか、空気感が重いよね~」

「分かる!

…まあそりゃそうか、みんな進路が掛かってるからな。」「うんうん。」

まるで他人事のように、「みんな」と口にしたが、

進路を他人事にしてしまえるのはオレだけじゃなかったようだ。


「テスト終わりを期にさ、

街中出かけちゃわない?」

いたずらっぽい笑みをオレに向ける。

ルナのこういう笑顔をみると、安心する。なんでだろう。

「CDショップとかまた寄ろうよ!」

「賛成。ツキツクが新しく出したCD、

買いにいこうぜ!」


その安心はすぐに暗くなり、新月が来た。

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