第4話 オーク現る



  教会の建物周辺に魔物の気配、ざっと見積もって3体か?


 シスターさんは顔を強張らせている、その様子は正に恐怖そのもの。


 きっと魔物に酷い目に遭わされていたに違いない、今も身体が震えている。


 「大丈夫ですか?」


 俺が尋ねると、シスターさんは気丈にも笑顔で答えた。


 「大丈夫ですわ、慣れていますから。」


 女の身で、よくも耐えているようだ。魔物たちがなにやら話ている。


 上手く聞き取れないが、おそらくあまり良くない事を言っているのは解る。


 俺はどうしたものかなと思案していると、時間切れらしい、扉が開かれた。


 「シスターちゃん、今日もオークチンポの素晴らしさをたっぷりと教えてあげるよ。」


 入って来て早々にこのセリフ、流石オーク、見た目の醜悪さだけでなく言葉も醜い。


 「んん? なんだ? 人間の男がいるぞ?」


 「男なんぞいらん! 殺して表の「飾り」と同じようにしてやれ!」


 「まあ待て、見た所この辺りの住人じゃなさそうだ。俺達オークの素晴らしさを広める為に生かしておくのも一興だ。」


 何だこいつ等? 魔物のオークである事は理解しているが、こうも堂々としているのは何故だろうか?


 オーク、見た目は醜悪な顔、まるで豚を思わせる。丸々と肥え太った体。


 緑色の体色に、身長はぱっと見2メートルくらい。


 斧などの武器を担いでいるあたり、器用さはそこそこ。


 そして、この臭い。臭いなんてもんじゃない。正に糞の臭い。鼻が曲がる。


 ここでシスターさんが身を挺して俺を庇う。


 「いえ、この男は既にここを立ち去るようでしたので、このままお見逃し下さい。」


 「あーん? おいシスター、お前いつから俺等に意見するようになった?」


 「これは躾が必要らしいな、ぐへへへ。」


 「おい! そこの男! 邪魔だ! とっとと出て行け! 見逃してやるからよ。」


 「そうそう、てめーみたいなゴミクズ、いつでも殺せるからよ。ぎゃははは!」


 お! どうやら見逃してもらえるらしいぞ、やったね。


 ここで死ぬ訳にはいかない、さっさとここから立ち去ろう。


 「じゃあ、俺はこのへんで。」


 俺は建物の裏口から逃れようと、ゆっくりと移動を開始した。


 シスターさんには申し訳ないが、俺がここで暴れたってやられるだけだ。


 俺は多分、平民か一般人あたりの役どころだろう。


 正にモブ、そう、俺はモブキャラなのだよ。期待してもらっちゃ困る。


 オークは3体、まず勝てない。戦っても返り討ちだろう。


 俺は戦士ではない、モブなのだ。非力なんだよ。


 だから、だからさ、シスターさん、そんな怯えた表情で俺を見るのはやめてくれ。


 助けられないよ、俺では。何の役にも立たない、それがモブ。


 わきまえている、俺はわきまえているんだ。


 しかし何だな、本当にこの国は魔物に支配されているんだな。


 と言う事は、今のゲーム内の時間軸は、おそらく物語中盤あたりだろうか?


 序盤はヴァルキリーが活躍し、そしてオークに捕まる頃。


 中盤は、今の状況と同じ、オークが町や村、王都で好き勝手にしている状態。


 おそらく今ここだろう。中盤あたりだな。


 俺が踵を返そうとしたその時、シスターさんが俺に何かの袋を渡してきた。


 「待って下さい、忘れ物ですよ。この袋はあなたの物です。ここに置いておかれても困ります。」


 シスターさんは気丈に振舞って、俺に大き目の袋を手渡してきた。


 ふーむ、こんな物は知らんが、「俺の忘れ物」として渡してきた辺り、オークに知られたくないって事だよな。


 「ああ、忘れてた、これ俺のだ。」


 そう言いつつ、俺はシスターさんから皮袋を受け取った。


 その時、シスターさんが小さな声で、「外で」と言った。


 なるほど、ここから離れて外でこの皮袋の中身を確かめろ。という事だな。


 了解だ、シスターさん。


 俺はこくりと頷き、何も言わずに黙って裏口から出て行く。


 後ろからは、オーク共の下卑た笑い声、俺が何も出来ずに去っていく様を見て笑っていた。


 正直悔しいが、今の俺は何の力も無い。ただのモブ。


 解ってる、わきまえている、知っている、この後シスターさんがどんな目に遭うかも。


 俺は黙って裏口から出て、外の空気を吸う。


 「すーはー、すーはー。」


 落ち着け、落ち着けよ横道。今の自分はただのモブ、何もできやしない。


 外に出て、早速皮袋の中身を確かめる。先ずは紙切れが一枚上の方に入っている。


 俺はその紙切れを取り出し、開いてみる。何かの文字が書かれている。


 だが、俺にはその文字が読める。これも異世界補正ってやつかな?


 『この袋は昔、ある旅の神官戦士が持ち込んだ魔法の道具袋です、あなたに差し上げます。どうかお役立て下さい。』


 「シスターさん………。」


 目頭が熱くなってきた、シスターさんは俺を庇って逃がしてくれただけでなく、ちゃんとその後の事を考えて俺にこの袋を渡したのだ。


 「大切にしなくては。」


 俺はシスターさんに感謝した、自分の身を挺してまで俺を気遣う。


 中々出来ることでは無い。落ち込んでる場合じゃない。


 さて、中身を確認しよう。何が入っているのかな?


 先ずは飲み水、パン、そして何かの本、ひょっとしてこの本はスキルブックなのでは!?


 スキルブックとは、ただ読むだけでスキルが習得できるマジックアイテムだ。


 何のスキルかは解らんが、今の俺に必要そうだ。


 あとは回復のポーションに、これは日記かな? あとで読んでみよう。


 更に中身の物を取り出していく、あった! お待ちかねの。


 「武器だな、しかもこれは、日本刀。カタナだな。」


 


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